■自らのいびきの音に起こされし真夜、秋雷のいつしかやみぬ
浴槽の蛇口ひねれば頭上より驟雨のごときシャワー降りたり
■たちまちに空は翳りてふらんすの速報をよむキャスターの声
■音ひとつなき秋の夜にさあさあと絵筆で奏でゆく麦の海
■元妻の文たわいなく廃線となりし軌条を犬が横切る
■夕焼けは生肉の色ぴんぴんと朝の寝癖のいまだなおらず
みどりごのまだひらかざるまなうらに棲むひかりもて冬はきたりぬ
灰色の雲うごかざるゆうぐれのあなたの舟に耳をすませる
ひと筆をのこして了える水彩のばらの花弁はあなたが咲かす
■あしあとをたどる雪の上さりさりとあなたのすきなものがたり読む
2015.12/20〆(2016.3月号掲載)
■くろき鞄あたまにのせてゆくひとのヒールのそこで跳ねる水沫
■舟ひとつ連れもどしゆくひきしおの師走のあさに伯父は逝きたり
■はつふゆの海はやさしくステンカラーにくろきネクタイ隠しつつ過ぐ
■ワイヤーのきしみたる真夜、上層の階でだれかがエレベーターよぶ
■それを処理しおえるまでを乗客はふゆの原野にとりのこされる
■誠実はひとりにひとつ艶めいた袋綴じなどひらかずに捨つ
はふはふと麺すすりいる三本の眼鏡のうちのひとつが曇る
■せかいから隔離されたるいれもののなかでほのおの芯をみせあう
■肩書きをとれば一個の草として初冬のかぜにゆれてふれあう
■炎天に見えざる銀河、たどるときあなたはふっと息をみだしぬ
塔出詠歌 2016
2016.1/20〆(2016.4月号掲載)
■トイレットペーパーの端を三角に折り曲げおれば師走のやもめ
■カップルではなやぐ店に我ひとりちいさき蝿にたかられており
■グチをきくことにも疲れジャパネットタカタの歌を母越しに聴く
■懐妊を息子夫婦に告げられし真夜、えびせんを正座して食う
■まよい来しこの道のさき正解のように立ちたる息子のせなか
減速とハザードランプ 前方をさえぎる闇が連鎖されくる
折り返しはともに越えしか透明な定規に透けるかろやかなゆき
■ふりむけば鏡のなかの湯上りの我の臀部の縦にわれおり
■かおとかおかさねるときの「ふゆ」と言う口のかたちでふゆをわけあう
とおまわりしてきたきみのほの熱き足の指間に舌を這わせる
2016.2/20〆(2016.5月号掲載
きづかないふりして彼は扉をしめる風の子ならば階段でゆけ
アイドルの解散話を聞きおりぬ右の鼻孔に指を挿れつつ
■味うすき麺すすりいる底いより粉末スープの袋あらわる
■ランナーたちをうつす画面がひたひたとかつてふられた角にちかづく
■喪いしことあらためておもいおり「志」とう薄墨の文字
■昼と夜が半々ならば人生のはんぶんはゆめ 湯たんぽを抱く
■晩冬の砂にうもれたくるぶしへ波くるごとに置き去られおり
■深紅なるリードの端を持たされたひとがチワワに連れてゆかれる
ほんとうのわが声を聴く ウォシュレットのあらぶる水にツボをおされて
■かいがらのようなる耳朶にくちびるをよせて未踏の夏へいざなう
2016.3/20〆(2016.6月号掲載
■玄界灘で今朝獲れたてのそしていま死にたてのその一片を喰う
塩を入れすぎたる鍋に湯をたしてひと月ぶんの味噌汁できる
濃紅はじょうねつのいろ牛丼のすみにこっそり情熱のせる
■「全う」とう言葉うつくしひんやりといまだ地中の蝉をおもいぬ
■その痕に耳をよせれば聴こえくるあなたの海よ てのひらを置く
■ソヨゴ否、クスノキか否、常緑にそそぐ冬陽をふたり見ており
満開から徒歩十分のリビングのニュース画像で満開を知る
書店ではやや買いづらき写真集Amazonで買い経費でおとす
からからと吸い込まれいる数粒の鬼、福なべてわが手を過ぎる
■このひととたどるのだろうゆらゆらとゆく草舟が海につくまで
2016.4/20〆(2016.7月号掲載
傷めぬように掘り返すときぶちぶちとシャベルの先に絶つおとをきく
■礼服の肩にみずから塩をかけくずれそうなる我ふりおとす
昭和的駄洒落をいえば少年のひとみの奥にアラスカの見ゆ
■笑われんようになったらしまいやで鏡のなかでくちびるを噛む
ほろびゆくものだけがもつ眼底に棲むひかりもて春をむかえよ
■むせかえる春の樹海よ女性用下着売場の出口のみえず
■さみしいと言葉にすればたちまちにくずれゆきたる岬のありぬ
やわらかな陽を浴びてゆく雑踏でヴァン・ヘイレンの音量あげる
■悔恨はふいにきたりぬ無洗米をふつうに研いでしまいしことの
言葉よりもたいせつなものをせきららにながれゆきたる川下でまつ
2016.5/20〆(2016.8月号掲載)
■二十六年前の赤子がゆたかなる胸板のなか赤子をいだく
■(いつかは我もこのようにして)息子らにのぞきこまれて赤子はねむる
あしたには散るかもしれぬゆうぐれのがんじがらめの駐輪の鉄
■見送りの礼交わしつつ閉まりゆくエレベーターの扉がまたひらく
■もうなにもうしないたくはないと言え ほろほろとゆく葉桜のみち
おもいのほかにちいさきコップみたしてもすぐにかわいて声をほしがる
■ひさしぶりやね 春暮れにかちかちのあずきアイスを犬歯でくだく
■ちちふさにうずもるときも暗がりにわれを見つめるくろき馬あり
閉ざされた世界にふたり先をゆくきみから二段おくれてくだる
■ひそやかに熟れゆく果実 逢いたさはときに絵筆のさきをこぼれる
2016.6/20〆(2016.9月号掲載)
■わが腕の先端、みぎてと菓子パンとひしめくはねをとおくみており
■「さ〜て」とうサザエの声を靴下の穴からのぞくゆび越しに聴く
乙女座の順位十二位はつなつの午前七時に今日を捨ており
■ネクタイを弛めてひとりずるずるとカレー南蛮ぞんざいに食う
■つぎつぎと過ぎるくるまが照り返すひかり眩しき一点のあり
■はじまりはおわりのきざし階調のうすき虚空をしろき鳥ゆく
■三日後に六月となるゆうぐれに大盛りツユダクもてあましおり
■息子より内祝いの品とどきたる六月三日こたつをしまう
扇風機にかおを近づけ湯上がりの声ふるわせる水無月 しずか
■またひとつあきらめかたがうまくなり製氷皿のこおりをはがす
2016.7/20〆(2016.10月号掲載)
窓からは見えざりしみずにうっすらと包まれながらペダルをこぎつ
罪ということばの上に肘を置きほおづえ、鬼灯いろづく夕
洗剤の沁みてはじめて気付きおりひとさしゆびの細ききずぐち
■窓外に傘ちらちらと咲きはじめ冷凍飯をレンジでほぐす
■台所中にちらばる飯粒を拭きおえしのち焼飯を食う
■ネオンを映す川面おだやか息子らは赤子をはさみ眠りおりしか
■なつのそら映す水面をみだしゆく航跡のすじ、絵筆に逃がす
■わからへんやつもいるよと山芋のからみつきたる蕎麦をすすりつ
■鼻と鼻かさねあうとき春色の汽車に乗ってといううたをきく
■憂いすべて分けあうようにくちびるを吸う 窓越しに夏を浴びつつ
2016.8/20〆(2016.11月号掲載)
雨音とわが内にある周波数あいはじめたり カーテンとざす
■蒼天に干すしろきシャツぱんぱんと叩いておれば手のよごれつく
■猛るように蝉時雨ふればわらわらと記憶の淵をあふれくる夏
■水まわり点検業者が靴をぬぐせつな艶めくサイトを閉じる
■ゆるやかに尿意の波のうちよせて組曲「惑星」じりじりと聴く
助手席に美女を乗せたるオープンカーのポルシェに鳥の糞の雨ふれ
ミーンミーンの音鳴りやまず伴奏のようにずずーと蕎麦をすすりつ
■ふいに蝉鳴きやみおりしまひるまに放り出されたような あおぞら
■皮膚うすきところに見ゆる静脈をたどってきみの潮騒をきく
■あす死ぬとおもえばそらはこんなにもしたたるようにあつく溶けたい
2016.9/20〆(2016.12月号掲載)
■きずぐちのかわく間もなくしくしくとおなじ航路を旅客機はゆく
■負けるならきちんと負けよ溶けかけのアイスが棒にしがみつきたり
■執着ひとつ解き放ちたるてのひらを秋にさらせば風の撫でゆく
街なかで生まれた歌を抱きしめた伏見町にてあなたを待ちぬ
■これからも生まれつづける歌だろう秋の坂道ならんでくだる
■さりげない永遠ひとつ手に入れて横断歩道のまえでわかれる
■パプリカをはこぶ箸さき見つめおり吾にはえがけぬ絵を描くひとの
■勝負下着というもののあり受けて立つ理由もなくてへらへら逃げる
所帯とは鉄の鳥籠あれこれを望まぬのなら抱かれてもよい
■アリス紗良オット奏でる音階の海にかつてのこいびとと入る
2016.10/20〆(2017.1月号掲載)
■パレットは常にいちばんあたらしい最後の夏のいろを残しぬ
■ざんざんと降りやまぬ真夜ずぶぬれに罵声を浴びし日をおもいおり
ひんやりと秋をおもいぬウォシュレットのあらぶる水にあらわれながら
■クラシックコンサートには緞帳がないよね ならんで開演をまつ
もはやあらがうちからも失せてゆさゆさと真昼ふつうにおかされており
カーナビに吾はどのあたり 磔刑のごとき十字路ひりひりとゆく
■つらいときのみにあがなうエクレアをカゴに入れるも棚にもどしつ
ああこれは夢だとわかる夢のなかすることもなく女湯のぞく
■見たことはないのになつかしい海をあなたがくれた絵筆にたどる
■大気圏をこえてはばたく鳥の目でサイドシートのよこがおを見る
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ひそやかに春は来たりぬ繋がれた子犬のながき毛をそよがせて
■記憶とはあやふやな棘 雨傘の襞の谷間が湿りておりぬ
■身震いをする犬のごと傘を解き五月驟雨の街へ出かける
降り立てばホームの風はうるさくて乗客だった過去をわすれる
■中学生のようにこそこそ久保さんと丸山さんと煙を吐きぬ
■海に浮くあぶらが放つ虹のごと新宿で聞くおおさかことば
減点一の調書とりつつ老巡査は目のみを上げて我を見つめた
■高速で唸りをあげる換気扇の羽根越しに見る春、白濁の
■刀身の血をはらうごと傘を振り逢いたきひとの待つ店に入る
■黄色いイカのようなる子らがぴちゃぴちゃと追い抜きゆけり春雨のなか
2015.6/20〆(2015.9月号掲載)
■二度寝から目覚めたような街をゆく犬にあくびをうつされながら
■朱に染まる高架をゆけばビルの間に患部のごとき陽が見えて消ゆ
■イリオモテヤマネコがすき好き勝手に生きてなおかつ大事にされて
■吹降りの雨に差し込むゆびさきの贖罪手記を閉じて去りたり
広辞苑に付箋をつけて閉じおればその勢いで付箋はがれる
■店員がコーラを置きて去りしのち続きを歌う「キューティハニー」
■「自由」とは「孤高」のこども香ばしい塩ラーメンを鍋のまま食う
■会ったことはないけどわかる快活な叔父貴のようなかごしまへゆく
とうきょうを偉ぶるひとに関西弁開放レベルMAXで笑む
■ひそやかに水位あがりて表情を悟られぬようその口を吸う
2015.7/20〆(2015.10月号掲載)
■息子夫婦をまつ夕つ方このようにかつては我を待ちしか父も
■テンピュール枕となりて向き合いぬ疲れたる娘が零すことばに
■注意書きの赤き文字のみ陽に焼けてそこのみ見えなくなる給湯器
はんたいの怒号ばかりが燃えさかりわが窓を染む 銃後のごとく
左耳ばかりくすぐる初夏のときには右の声も聴きたい
例年とくらべられても梅雨明けは我には常にはじめての夏
■新聞はビニール袋に入れられてあかつきのその手間を想いぬ
■フィナンシャルプランナーが描くまっさらな舗道を逸れて川へゆきたり
わが傘のさきよりながれゆく川ののびてちぢんでバスに揺られる
■ややとおい暗喩のようにじりじりと甘噛みしたるみみたぶの肉
2015.8/20〆(2015.11月号掲載)
自転車のサドルに置きし手の甲にしばし陽射しを載せてから発つ
『飛行』抄読み終えしのちあじさいの咲きいるなかにあぢさゐを見る
■祖母に手を合わせる横に童子とう文字きざまれし位牌のありぬ
浮上して顔を上げたる水面のながき終章を読み終えしのち
■訊かれれば地図くらい描く ニッポンはやさしい国と思われたくて
■諏訪ナンバーに道を譲りぬ おおさかはやさしい街と思われたくて
■老人に席をゆずりぬ いい人と思われたくてするわけでなく
■溶接工の面のようなるツバ広きサンバイザーとすれ違いたり
盆終えし改札口にはそれぞれが持ち帰りたる夏がさざめく
目覚めれば秋の匂いの澄みわたりまた一歩われは死へと近づく
2015.9/20〆(2015.12月号掲載)
■「はじめまして久しぶりだね」名前だけは旧知の友とかごしまで会う
■お若いのですねと言われ聞こえなかったふりしてそれを二回言わせる
■充電と称して喫煙所へゆけば亜子さん久保さんが常におりたり
身内の匂いに引き寄せられて座りたる後ろで小川ちとせさん笑む
互選歌を互みにえらびし酒井さんと晩夏の隅で褒めちぎり合う
■淳幸緒ぴりか(敬称略)とゆくファミレスメニューのフラッペ眩し
「みちづれ」を諳んじながら淳さんと西藤さんとゲートくぐりぬ
■離陸時の助走がトップスピードにさしかかる時おもかげうかぶ
■たましいが離脱する日を思いおり重き機体の浮きあがるとき
ふりそそぐ薩摩の肌をゆうらりと撫でいるように機影はゆけり
2015.10/20〆(2016.1月号掲載)
■回転寿司屋駐車場には元妻の車がありぬ うどん屋へゆく
■吾が詠みし元妻歌を元妻が知る日をおもう うどん伸びおり
■五時限目まで給食をもてあます児童のように麺をすすりぬ
死にばしょはここと決めしか西向きのサッシの溝にかわきたる蝉
■欲すればさらにさみしい秋雨の夜の底いで自意識ころす
■崩れゆきそうなる自我よ骨太な筆で一気に描くあきのそら
空に放てばかき消されゆくものならば我がためだけに声を聴かせよ
■すべてうちあけてしまえばからからと空のラムネに射す晩夏光
照準をあわせて便器にこびりつくよごれをおとす尿の奔流
無精髭にティッシュの屑の付きおりしことに気付きぬ夕つ方 秋
■バレンタインデーに興味はない顔で郵便受けを八度見にゆく
■郵便受けのなか横たわる封筒に「歌うたのしさ読むよろこび」の文字
義理ならばチョコは要らぬと嘯きてなにごともなくその日が終わる
■野菜とか肉の隙間に板チョコを忍ばせて買うバレンタインデー
■予定表に予定埋まらぬきさらぎの雲なき空をあおぞらと呼ぶ
暑いので袖をまくれば寒くなり袖をもどして一日を終う
■豹よりも豹柄の似合うご婦人が肉を見る眼ですれ違いたり
■〈開運食はイカとタコ〉とう占いの頁を閉じてくら寿司へ行く
■骨付きのチキンにしゃぶりつきながら思い出しおり細き鎖骨を
■今朝もまた水を遣るとき受け皿のみずの溜まりにはじめて気付く
2015.3/20〆(2015.6月号掲載)
■「なるはや」とは「なるべく早く」という略語なげかけられて社に戻りたり
「なるはや」といえば「国体」グーグルで検索すれどそんなものなし
■「ごごいち」は「午後一番」の略語なり納品のあとCoCo壱に寄る
木漏れ日がつくる斑な道をぬけグリーンジャンボを連番で買う
コンビニのレジで公共料金を振り込むひとに列は続かず
■どのレジも込み合いたれば買物の少ないひとのうしろに並ぶ
行列のレジで端数の一円をさがしあぐねて千円を出す
■二〇度を越える予報を聞きし夜フローリングに素足を置きぬ
■周回をかさねるごとに乾きゆくエンガワ二貫をまたも見送る
スパイスにいまだ痺れる舌先をわけあうように交わすくちづけ
2015.4/20〆(2015.7月号掲載)
■老いという実感いまだうすき春散らさぬほどの雨にうたれつ
■ぽつぽつと不安のように灯りゆく雨滴まとめてワイパーで掃く
薄紅の散り敷かれたる沿道に紺のスーツの群れを見送る
■米を研ぐ水やわらかき春の暮れ回転翼の音いつしか去りぬ
■あれから二年五年八年、とおざかる港のような春の在りたり
■異邦人の打ち寄す波にのまれつつどうとんぼりをひとり旅する
■ほそき道過ぎいる腕に触れしのち葉はしなやかに元へ戻りぬ
桜木にみっしりと咲く薄紅のはざまより見る仲春のそら
白雲をのこして描く陽春の空のかたちにそらいろを塗る
■雨ふればにわかに色づくさくらばな逢えぬ一日はなにごともなく
■スケッチを描くように母は語りおり我が五つの頃の小道を
いま永久に眠りしひとのあることを思えばきつき木犀の香
冬ちかき陽射しのようなおもざしに未生以前の記憶をたどる
■予定表埋まりつつある年末の雲の切れ間にあおぞらを見る
■それぞれを補わせつつ色と色にじませながら書く年賀状
鼻をかむ日曜のあさ無精髭のティッシュのカスに気付く夕方
■我の名に昨夜の雨をにじませて喪中はがきがまたひとつ来る
なぜに絵を描くかという問いに答えつつ思いだしおり詠う理由を
■冬の夜を列車はゆきぬ世界から隔離されたる方舟のごと
■となりあう座席にうもれ誰からも見えぬ死角で交わすほほえみ
2015.1/20〆(2015.4月号掲載)
■イアフォンをはずした耳にさわさわと師走の音が戻りはじめる
■年末に皿うどん食う最後まで取り置くうずらの白を見ながら
中高生のノロケ話に挟まれてひとりマクドでブラックを飲む
■クレンジング用品一式洗面の物入れにあり 誰のだっけか
■ラの音にあわせ整いゆく弦のあなたの呼吸に耳を澄ませる
■黄信号に阻まれてみたり遠回りしたりしながら送りとどける
■助手席の残り香に手をさしのべて赤信号を越えそうになる
■ほくほくと飲み干したるに缶底のコーンの粒が降りてくれない
新年を告げる〈ゆく年くる年〉のひそかな蒼き火のように恋う
■厳冬のひかり保ちて揺れおりし雨滴まばらな電線に添う
暖色に染まる心斎橋筋のハウンドトゥースを窓越しに見る
■猥雑なはなしをしよう平日のビジネス街に舟をうかべて
本町の放置禁止のペイントのうえに置かれた自転車ふたつ
他人にはけして話せぬことばかり話してしまう 本町通り
■あこがれを子猫のようにもてあます九月、蝉鳴く箕面公園
阿波座から京町堀へあのころのおもかげさがす首が疲れる
■子供らと遊んだ土地にビルは建ち知らない国を見るようにみる
千日前を西へ向かえば千代崎の右にまあるい屋根見えきたり
■四三号を越えて二筋目を左折バーミヤンにてつけ麺を食う
■図書館の向かいのロイホの一角に隔離されつつニコチンを摂る
2014.10/20〆(2015.1月号掲載)
■夕空へ消えゆくものをかわきたる穂先ねかせてきれぎれに描く
■子の妻に「パパ」と呼ばれた墓参道ふりかえらずに「おゝ」と応える
パパという呼び名に深い意味はなく女を囲う甲斐性もない
■父は子にとにかく肉を食わせたい生き物らしい上ハラミ焼く
■ホルモンは息子夫婦に薄切りのカルビは母にかぼちゃは我に
■喫煙の本数は増え不甲斐なき己を嘆く体を繕う
■ふんふんと不倫ドラマをひとごとのように観ており茶をこぼしつつ
■ローソンで便所をお借りしたあとに特に欲しくもないガムを買う
■一年の油よごれを落とすためベートーヴェンのチケットを取る
菓子棚で叱られおりし幼子と目が合わぬよう通り抜けたり
2014.11/20〆(2015.2月号掲載)
■おだやかに秋は過ぎおり暖色の絵の具ばかりを痩せ細らせて
■九年ぶりの眼科へゆきぬ九年といえば離婚をするまえの眼
■九年前わが目は何を見てなにに見ぬふりをしていたのか 妻の
名前などいまはいらない 筆さきに水を多めに含ませて描く
ゆるやかにせわしくなりし霜月の便器の蝿を小便で追う
勝ち負けの螺旋を降りて仰ぎみれば秋風はただ秋に吹くかぜ
■名前さえ薄れかけたる知り合いの孤独死、はるか人づてに聞く
見上げれば此岸彼岸のあわいなどどうでもよくて億千の星
■いくたびの出逢いをかさね来世を迷わぬために横顔をみる
■銀色の棺のような箱のなか喪中はがきがまたひとつ来る
◎てのひらのたまごを包むまなざしで宰相が説く権利いくつか
ぽつぽつと降りはじめたり弾雨にもなり得る明日を夜に潜めて
はてしなくデモはつらなる国ひとつ覆えるほどの渦の真下を
■硝煙のようなる霧をただよわせ豪雨はわれらに垂直にふる
■閃光ののち響きくる雷鳴にかき消されたる撃鉄の音よ
圏内に収まるわれらもろともに驟雨を浴びてはつなつに佇つ
見上げれば七月のそら弾道のようなる雲がわれを横切る
■酒瓶のなかの帆船きらきらと六十九年の窓を飾りき
■ひとりひとりに流れる河へてのひらを浸しつつ書く選歌欄評
降る雨はパールグレイのカーテンのようにやさしく我を閉ざしぬ
2014.8/20〆(2014.11月号掲載)
かわきたる喉潤せば息を吹きかえすひとつのかなしみのあり
■夏カレーかきまぜながら我だけに見せるあなたのよこがおがすき
■透きとおる水を穂先にふくませて画用紙に書くあなたのなまえ
透明なふくろに二尾をおよがせてひらり浴衣の向日葵がゆく
■手花火をかたむけるひとの顔の面にこまかく揺れる火影まばゆし
残し得ぬおもいでならば手花火にくすぶる夏を水にしずめよ
■残像をかかえてわれら手花火の軸ちらばりし砂浜に佇つ
はつなつの水弾きたる賀茂茄子の侵されざりし闇のありたり
■大阪をあまたながれる淡水の解けゆく果てになみなみと海
■あなたの歌を連れていでたる初夏のフロントガラスに海はひろがる
■震災の時刻にひとり窓を開けひと繋がりの春を仰いだ
■詠む前にするべきことがあるようで未だに詠めぬ震災のうた
行方不明者数多いるとき鎮魂歌つどいし人らの善意のゆくえ
■少年が歩道に花を手向けいるテレビを消せば我うつりたり
■あの春にそろえた防災用品のペットボトルが期限を過ぎる
■春眠をつづける上町断層の真上で我はめしを食いおり
■なにひとつ疑いもせずカーナビは三年前の道を映せり
■きっかけがほしいさんがつ裸木は無数の枝で蒼天をつく
春ちかきそら仰ぎ見るまひるまの見えざる星を指で追いつつ
■なごり雪のせてさくらは静脈のようなる枝をそらに広げる
2014.4/20〆(2014.7月号掲載)
■待ち合わせ場所の墓前で我を待つ息子夫婦の背に春がふる
■合掌を終えて見やれば息子らのふかき祈りのいまだ終わらず
■ファミレスで息子夫婦にステーキを勧める我はひさびさに父
■もはや数知れぬ場面を食いしばりきたりし奥歯を今日抜くという
■渾身のちからを込めた歯科医師が我の頭蓋と歯を引き剥がす
■舌先で探ればそこに在りし歯の一本分の空白がある
前世は妻でありしか理屈では語れぬひとと麦酒を交わす
濃密な麦酒の色に綴じたまま思いだせざる記憶のありぬ
■今生を生きたるわれらふんわりと麦酒のうえの泡沫を飲む
■ほの暗き店の灯りに閉ざされていま、来世を信じたくなる
2014.5/20〆(2014.8月号掲載)
■満開になれば賑わう城郭もみどりが充ちて人まばらなり
我が着ぐるみの綻び修繕するごとく人間ドックに予約入れたり
■検査へと我が身を運ぶむせかえるような五月の葉むらをぬけて
■オプションの検査項目それぞれに税込み価格が記されており
問診票のチェックを入れるマスの目がすずなりなれど空白で出す
■バリウムと下剤飲まされぐりんぐりんと許されるまで回されている
■「通信制大学へ行く」と公務員の息子二十四決意の四月
■学ぶことは尊きことと高卒の我は息子の背をぽんと押す
職場からの入試の許可が降りぬ由 元気出しなとLINEを送る
海の色あふれるように咲く花を八十三の父に贈りぬ
2014.6/20〆(2014.9月号掲載)
■天気図は西からくずれあのひとと今年もおなじ梅雨をむかえる
震源地をしめすテロップ待つときの長きせつなに息ひそめおり
■日曜朝の初戦にやぶれニッポンの梅雨晴れのした行くあてもなく
■父がもし先立ったなら大阪へ呼ぶよと言えば母は笑えり
■酒煙草博打女のいずれをもたしなまぬとうつまらぬおとこ
■十四ヶ月ぶりに煙草に火をつけて吸う必要のないそれを消す
いい言葉は人生を変えるという本の積まれておりぬダイソーの隅に
■級友の墓前につどうともがらとわれの頭上に日照り雨ふる
■落款の文字かすれたる水墨のほそき葉脈に見るいきづかい
『海越ゆる』という名の色をにじませて画紙いちめんに夏をはじめよ
]]>光年を隔てて見ゆるいまはもう跡形もなき星の残像
ささやかな風にまぎれて蒼天にふる雪をまつ恋かもしれぬ
■銃身のようなる枝にいまもなおしがみつきたる蝉の抜け殻
■磨り硝子越しに見ている家政婦を覗き見ている家政婦二号
嘘をつく時はかならずクロールでちからいっぱい目が泳ぐ人
■中指と人差し指を丁寧に揃えた指でお寿司を食べる
■パジャマ着てナイトキャップで外へ出る人はたいてい腕組みをする
骨付きのチキンにしゃぶりつきながら思い出してるあなたの鎖骨
■カーネルに罪など全部おし着せて道頓堀へぶち込めハニー
タラちゃんが走った時に出る音で今シーズンの彼を占う
2013.12/20〆(2014.3月号掲載)
■暑かった今夏を額にとじこめて真冬にひらく水彩画展
すきとおる冬の呼吸を窓外に聴きつつ夏の絵をならべたり
■現世から隔離されたるここちして個展会場より外を見る
■それらの絵えらぶ人らにそれぞれの理由がありて夏の絵を売る
■ふと客が途切れたときの静寂に歌いはじめる水彩画たち
■気がつけば五分十分 売約の絵の前にいて其れを見つめる
走馬灯のようなる日々よ旧友や知人先輩つぎつぎに来る
■一瞬の光りを描く 我々の死後もそそぐであろうひかりを
■夢中とは夢の中なり夢中にて描いた夜が思いだせない
■子の描きし夏の景色を父母は噛みしむようにゆっくりと見つ
2014.1/20〆(2014.4月号掲載)
蕎麦のうえ鎮座まします海老天は衣に比して身が五割弱
■四十五度に座椅子かたむけ紅白を観れば吼えいる泉谷しげる
紙吹雪に鼻を塞がれませぬよう祈りつつ観る北島三郎
■うたた寝をしていたのだろ天童よしみ付近の記憶が抜け落ちている
紅白の熱をゆく年くる年に冷まされながら新年を待つ
新年の時報を挟みひとしれず足掛け二年の小便をする
■おめでとういやこちらこそ洗面の鏡に向かう独り身のあさ
■かまぼこの板は木目に墨汁が走るので表札には向かない
弾力のせいかもしれぬ 蒲鉾を噛むわれの歯を押し返すのは
■正月のテレビを観ればかまぼこのような目をした人たちばかり
2014.2/20〆(2014.5月号掲載)
何をされているのかさえもわからずに歯科医の技に我をゆだねる
■歯を削る音ひびくたび無意識に削られまいと力む奥の歯
歯科助手は美人が多い そういえばここ二、三年キスをしてない
■歯科助手の胸ちかすぎて我が国の為替相場へ意識を逸らす
歯科助手の胸が触れたる右の肩 今日はお風呂に入らずにおく
年始回り(他社)の後尾に貼り付いて仲間意識をひとり味わう
■一心に米を研ぐときくるくるの渦に魅入って立ち眩みする
健康のためにと大阪城へ行き二周歩いて即風邪をひく
■眼鏡してマスクをすれば呼吸するごとに視界はくもる 冬だね
■会話するようにかれらの足音が寄り添いながら雪をふむ。きゅきゅ
まだ弱き六月の陽よ紫陽花は夏を知らずに毎年を死ぬ
■プールより上がりしせつなずっしりとのしかかりたる我のうつしみ
わが身より滴るみずが水無月のプールサイドにつくるみずうみ
■スクリーンから光はあふれ観客の顔を照らして脇役は逝く
■まっさらな冷やし中華のポスターが梅雨空のした夏をはじめる
■炎天に佇ちたる樹々は側道の隆起のままに影を這わせり
陽がつよくなれば深まる街路樹の影に潜める我と猫あり
■しなやかに流れゆきたる本道を逸れてまだ見ぬ夏へ行かぬか
パレットにこびりつきたるくれないのかつての夏を暮れ染めし空
■群青のしんと沁みたる筆先をあらい流せばほどけゆく海
2013.7/20〆(2013.10月号掲載)新樹集
◎夏ならば海を聴かせよ群青の絵の具を画紙に解き放ちおり
筆先を水にすすげば群青の色を失いゆくまでの海
◎パレットに乾きかけたるくれないを洗う指間に夏はこぼれる
あれは海あるいは火焔なまえさえ知らざる色で夏の絵を描く
◎絵筆をそそぐ筆洗のみず混ざりあうほどに濁ってゆくだけの空
◎閉じた目になおも眩しきはつなつの陽を横切るはかもめなりしか
◎海道は夏に添うみちゆるやかなカーブをふたりかたむきながら
◎エターナルとはやさしき言葉ひと夏をむさぼるように蝉時雨ふる
炎天下コンクリートにいま空を仰ぎし我の影きざみたり
生きるとは切り拓くことクロールで泳ぐ我が掌がつくる水沫
2013.8/20〆(2013.11月号掲載)
■この渋滞は帰省の列かリアガラス一枚ごとに空を映して
もれ聞こえくる球児らの熱戦にサラリーマンは足をとめおり
■ホームベースに球児は集うヘルメットひとつひとつに朝日を載せて
■同じ空同じ時刻に飛ぶ白を球児らは追うおなじ角度で
■甲子園の土すくいいる球児らを地を這うようにカメラは追えり
縦横に這う電線を見上げおりがんじがらめの青空のした
望まねば失うこともなきものを未明の空に遠雷を待つ
■音のない花火のように手放してきたものたちが我を照らしぬ
一輪も生けたことなき花器ひとつひんやりとして秋を待ちおり
母に教わりし歌謡を口ずさむように日暮れの夏を描きぬ
2013.9/20〆(2013.12月号掲載)
■台風がくるたび人が死ぬ国をながれる河は海にもどりぬ
雨脚の強まるごとに血脈のようなる河を壊してみずは
弓なりの島を這いいる台風のやがて死にゆく予定図をみる
ざあざあと間断なく降る雨音に閉ざされし夜、橋の絵を描く
欠航の文字あおぎ見る人達が眼に宿らせるそれぞれの海
■濁流にのまれそうなる渡月橋を見ていつ異国の動画のように
■横降りの雨に叩かれリポーターたちはそれでも傘をはなさず
携帯が知らせる避難勧告に振り分けられる地盤、街、ひと
■見上げれば速き雲足ともすれば街が動いているかもしれず
■嘘のように晴れた翌日そうやって忘れて人は朝飯を食む
2013.10/20〆(2014.1月号掲載)
第一回口頭弁論期日云々〜
裁判所から元妻へ届きたる出頭命令の封書ぶ厚き
■督促状〜催告書から訴状へとハマチはブリに肥大してゆく
「答弁書 書き方」等を調べいる我に「教えて!goo」はたのもし
■原告と被告のはざま我だけはカヤの外とは言い出しきれず
■元妻と債権回収会社へと向かう日、皮肉なほどのあおぞら
■免責を受けたる我に法律は優しい(もっとやさしくしてね)
■誠実をふりまきながら頭を下げる かつての妻と息をあわせて
■告訴は無事に取り下げられたし週末は秋を探しに行こう(ひとりで)
もう会うこともないと思えば元妻の目にうっすらと嘘泣きの水
■弱点を知り尽くしたるお互いが其処には触れず道をわかれる
前線の報いまだ来ぬゆるやかな真夜ひんやりと素足になりぬ
三月の陽を浴びながら廃品のソファのうえで猫は眠りぬ
ほしいのは確かなるものどんよりと黄砂の海に飛行機を追う
疵ひとつなき中古車に残りたる右折のときのハンドルの癖
おもいでになる筈だった三叉路を空走距離の間に過ぎゆきぬ
日曜真昼珈琲館のウインドウ越しに見ているどしゃぶりの春
収監を想起させおり日曜の喫煙室に窓ひとつなく
ふと顔を上げては我を見るときの眼鏡にうつる三月の空
路肩にて吹き込む風をハザードに刻みつけたる春の数秒
白線を越えたる我に中吊りの前田敦子はほほえみおりぬ
えいきしとうくしゃみをひとつするごとに思いだしたる父のえいきし
かすかなる祖父の記憶をゆりおこし揺り起こしたり祖父のえいきし
三代に渡るえいきし一堂にならべて聞いてみたい気もする
えいきしがひとりの部屋にこだましてひとりは嫌だと思いつつ寝る
春の破片を拾い集めてきたようなベッドにひとり風邪をひき寝る
仰ぎ見るカーブミラーの内外にむせかえりたる葉叢のみどり
チゲ鍋を取り分けながら無造作に我の名字はきらいかと問う
うすべにの雪のようなる道をゆく今年の春をあきらめながら
満ち潮のしずかに嵩を増すように我を吸いいる採血の針
刻々とかわりゆきたる夕空のその一秒をわかちあいたき
2013.5/20〆
街路樹は一列に立つそれぞれに率いる影をまじわらせつつ
窓外を車が走り去るごとにきらりと我を射す反射光
晴天の風はこび来る雨ほどのたまさかなりし想いにあらず
全車線みなみへ向かう道のごとあらがいきれぬ想いのありぬ
からからな感傷ひとつながめいる四月某日離婚記念日
土曜日の風ふきぬけるリビングにたかぶる春よ 海にいこうか
あこがれはあこがれのまま遠ざかるヒコーキ雲に春と名付ける
陽のあたるところをよけて鉛筆を走らせながら影をかさねる
目の粗き画紙にすべらす鉛筆の芯さくさくと春をかさねる
デッサンの線くるいたる街並に架空の鳥を二羽とばしおり
2013.2/20〆
ふたたびの春へ向かえりブレーキをふみつづけたる足をゆるして
青、青、青を伝えゆきたる信号にうながされおり風やわき午後
幾重にもつらなる尾灯そのうちのひとつとなりて夕景となる
昼と夜のさかいめは皆それぞれにいまだ灯さぬ車の多数
廃城のごと聳えたつ三セクをかすめるようにゆくメルセデス
昔日の街をゆきたり手触りのうすき記憶を眸にさずさえ
たましいの触れあうおとか奥底にねむる鼓膜をふるわせる声
ほとばしるもの鎮めたるにわたずみわが内にあり空を映しぬ
シロップは琥珀の海をゆらぎおりいま伝えたきものを燃やして
味うすき麺食みおえし底いよりスープの袋うき上がりたり
2013.1/20〆
たっぷりと水を含んだ画紙のうえ赤は白夜をゆく犬となる
水彩紙にやさしき色の滲みゆくゆるやかさにてひとを想いぬ
蒼天に舞う雪ひらり言葉にはならぬことばを風にゆだねる
いっこうに動かぬ雲を見上げいる首に脈うつ我のせつなは
真昼間にうく月おぼろ近くとも手の届かざるひとを想えり
もちをつくうさぎの面のうらがわに我の知らざる月夜はありぬ
部屋の灯を消さずに眠るすこしだけこころの皮膚のうすき夜更けは
えいえんは良きもの、という前提をうたがうことではじまるあした
筆跡を指で辿ればいまやっと出会えたようなひとの面影
洗顔の水はつめたく真冬日の生命線をきざむてのひら
2012.12/20〆
深海のような青へとゆるやかにのぞみ始発は今日をはじめる
乗客はみな眠りたり片頬に朝のひかりを等しく載せて
太陽がのぼる角度に田園の案山子の影は縮まりゆかむ
富士山はねぼけ眼を一瞬で目覚めさせいるちからをもてり
晩秋の色あふれたる山並みをときおりざんとトンネルは断つ
トンネルに色奪われし車窓にはモノクロームにしずむ我あり
音もなく田を撫でわたる晩秋の清しき風を車窓より見る
思慕ひとつ持てあましたる秋空にヒコーキ雲は生まれつづける
まどろみの余白によぎる面影を追うようにして帰るおおさか
マフラーに顔をうずめて蒼天にふる雪をまつ恋かもしれぬ
2012.11/20〆
一面にすすき群れいる高原へ秋をたずねてゆく阪和道
山肌をとおく見やれば渦潮のようにさざめくすすきはありぬ
タイヤより伝わり来たる山道の舗装されざる素肌けわしき
幾重にも連なりおりし稜線の青、だんだんと薄れゆくあお
我が髪を乱して去りぬ突風のすすきの海におこるさざなみ
子をあやすようにすすきは豊かなる穂を泳がせて風をあしらう
我が背丈とうに越えたる幾千の穂のすきまより秋天をみる
閑寂な往路を避けてダム沿いに秋ふきだまる道を帰りぬ
気道より吸いこむ冷気さみしさは我の芯まで沁みわたりゆく
夕闇の空をあおげば残照のいまだくすぶる雲ひとつあり
2012.10/20〆
昔日と変はらぬ空を見上げをり五十回忌の道のすがらに
会ひしことなき祖母なれば尚のこと恩知る寺へ逢ひにゆきたり
玉砂利をふむ音かろき父母の歩にあはせつつ参道をゆく
三門をくぐりし頬を撫でゆかむ清しき風に洗はれてをり
蝉すべて息絶へをりし静寂に樹齢ひさしき樟は佇ちをり
秒針の止まつたやうな本堂の甍のうゑを旅客機はゆく
天井たかき伽藍のうちにちんまりと佇みをりぬ祖母の位牌は
吾がゆびを零れおちたる抹香のゆらめきながら透きとほる白
僧正のこゑ打ちよせる潮騒のはざまにうかぶ祖母の戒名
そののちも残るであらう店ばかり選りたる父母と長楽館に入る
隧道はなかばを過ぎて半円に彩る夏へ我は向かえり
炎天の廃線たどる靴底を焦がすはいつの擦過なりしか
踏切を過ぎゆく我を抱きよせてまた突き放す喫緊の赤
始発駅ホームに射し込むやわらかなひかりの中に初蝉を聴く
幾重にも入り組む高架すりぬけて肩にふり来る水無月のみず
対向車ゆきかうせつな輪光は我をつつみて夜へ捨てさる
合流に道をゆずれば”室蘭”はハザードふいに二回点せり
陽が翳ればたちまち影に呑まれゆく国道沿いに我は立ちおり
蝉時雨ふいになりやむ静寂に放り出されるあおぞらの青
つぎつぎと青へとかわる御堂筋ゆくあてなくもこころ浮きたつ
2012.8/20〆
甲子園を飛び交う方言それぞれに等しく注ぐ蝉の夕立
グラウンドの土鎮めいる散水の飛沫にかかる虹を見ており
ホームへの標とならむ白線をまっすぐに引く整備係は
無死満塁 マウンドへ向き手をひろげ捕手は溢れるように笑えり
孤独なるマウンド上に少年は輪郭つよき影をうつせり
終戦の頃と変わらぬ空にむけ快音を放つ球児はつらつ
三塁コーチは打球のゆくえ追いながらちぎれるほどに腕をまわせり
午後の陽が傾くほどに分たれぬ日なたの土と日陰の土は
ゲームセットの声響くなか塁上のランナーしばし動けずにいる
顔を上げて他校の校歌聴きおりし少年達に夏の風ふく
2012.9/20〆
そびえたつプールの壁に少年は輪郭つよき影をうつせり
少年が花手向けいる報道をぷつりと消せば我うつりおり
他府県のナンバー集う八月のサービスエリアに降る蝉時雨
長距離バスの扉はひらき聞き慣れぬ訛りの人らそぞろあらわる
函館のナンバープレートにこびりつく土そのままにトラックはゆく
水門のなかば閉じたる川辺にてきみが羽織りし朱のカーディガン
ゆるやかにカーブを描く夕暮れのバックミラーにとおざかる夏
廃館の文字さやかなるくろき扉のひんやりとして夏をとじゆく
ひたむきに伸びるヒコーキ雲ひとつ見上げるごとにほどけゆく白
あかねさす九月の海よ父母の車窓を染めて単線はゆく
2012.06/20〆
隧道をぬけて一面むせかえる葉むらの海を貨車はゆきたり
路面電車のほそき軌道に交差するゼブラゾーンを蝶は舞いおり
廃駅のホームにのこる陽に灼けたベンチのうえを夏の蝶ゆく
まっすぐに連なる車窓それぞれのひかり宿して夜行はゆきぬ
上下線ならぶ軌条のそれぞれを等しく照らす八月の雨
鉄橋を越えゆくごとに喝采のようにさざめくすすきのひかり
小田原を告ぐアナウンス 知らぬ間に箱根の山を我は過ぎたり
海鹿島駅のベンチの背もたれにさしみしょうゆの看板ありぬ
単線の軌条はてなく陽炎のゆらぐ夏へと吸いこまれおり
乳色の路面電車がとおざかる立夏 とうふを無造作に切る
]]>みっしりと群れをなしいる真鰯のひかりの海を鮫はゆきたり
一枚の大きなる布なみうたせエイは舞いおり水槽の空
水槽に飼われる烏賊は泳ぎおり半透明に身をよじらせて
蒼天のいろさえ知らずペンギンがあおぐ檻舍の天井のあお
堅きかたき鱗の内にピラルクは原始のしろき記憶綴じおり
水槽にジンベイザメは泳ぎおり背に満天の星をちりばめ
鉄塔はなにをとむらう五線譜のごとき架線に鳥ちりばめて
打ち消せど打ち消せどなおワイパーを無惨にたたく土砂降りの雨
鍵のなき老父の書斎にかざられし運河の油彩を我は愛する
ありふれた街の素描にくれないの絵の具をともす老父の指先
2012.04/20〆
地図のうえ我の知らざる土地の名をなぞれる人の爪の三日月
根府川の駅より見ゆる我知らぬ我をも知らぬ海のまぶしさ
満開をしらせる記事の空白に極刑の文字透けてみえおり
満ち潮のしずかに嵩を増すごとく我を吸いいる採血の針
蒼天のおぼろなる月浮かせいる川とは海をめざすいきもの
二十二の頃に流行りし恋うたのただやみくもに高き音律
ただ一樹いまだ散らざるさくらあり潔さとは尊きことば
さしのべてなお届かざるふたつの手描かれおりぬファミレスの絵には
深夜、ファミレスの壁には贋作のイエスの絵あり空を見ていつ
対岸にいま咲きほこる薄紅をうつす川面にふる小糠雨
2012.03/20〆
なにひとつ受けとめられぬてのひらの熱にきえゆく一抹の雪
ふがいなき今日を終えゆく暮れ色の紅茶にうすき檸檬しずませ
借りものの上衣ぬぎすて冬ざれの白梅町にて白梅をまつ
号外を貰いそこねて歓声の青海に我と猫だけが浮く
ぼろぼろの楽譜を閉じて仰ぎみるカーブミラーの葉叢のみどり
菜の花は何にさざめく廃線となりし軌条にふる天気雨
しばし鳴りやがて鳴りやむ近隣の呼び鈴のなか春風をまつ
ピアノの音ふいにとぎれて初桜うながすようにほそき雨ふる
春風にそよぐ鈴蘭だきしめて俯くひとに逢いにゆきたし
帯状のテールランプをあかつきの歩道橋より解き放つ春
]]>■2012.02/20〆
またひとつとおざかりゆく 公園の錆びた玩具にふりつもる雪
竣工をみずに朽ちたる鉄骨の腕まっすぐに夕空をさす
吉凶の記されし文結う枝を白く染めゆく幾千の蝶
夕闇の深まるごとに仄白く浮かぶ陶器のようなさみしさ
小夜時雨たどりつきたるファミレスの座席に残るひとのぬくもり
行くあてもなく仰ぎみる冬空はかすかな雨を降らせるばかり
あたたかき雨降りの日の森ノ宮駅にて春の産声を待つ
二つ三つ付箋をつけて渡されし歌集に我の知る海のあり
わすれもの置き場にならぶあざやかな傘を横目に改札を入る
遮断壁のとぎれるごとに南紀へと向かう窓よりあふれくる青
2012.1/20〆
眩しいほどにその影は濃く 強引な西日の縁にてのひらを切る
まもられているのであろうあの人の咲かせる傘にふる桜雨
匂いたつ桜並木を焼きつける 春をあなたの季節と決めて
老画家はやさしき水をふくませる とりとめもない痩せた穂先に
ゆびきりを交わした指のぬくもりにおちては消える一抹の雪
父母のいまを西陽に焼きつけて残り少なき日めくりを繰る
わたくしの影をかさねた母の背に柔き西日をみる墓参道
まっすぐに歩道をあゆむ 三越のライオンを背に待つ母のため
ありがとう 触れ合う袖の隙間から芽吹く綿毛をふわり飛ばせる
こもれびの枝葉を透けてふりそそぐ詩の行間をまどろむふたり
2011.12/20〆
夕焼けに染め尽くされたこの部屋でひとり女が剥く落花生
夏の日のおもいですべて浮き輪からすうっと放つひぐらしの空
破裂したポストは空に滲みゆく 抱えきれないものを焦がして
遠雷にヘソを隠したあの夏の祖母の笑顔がにじむ送り火
時計とは逆に回した洗濯の渦 戻せない記憶がたわむ
水溜まり澱む水面のあおぞらをしずかに映すただしきちから
羽田発一二五便この街を撫でる機影にこめるサヨナラ
曇りガラスを片手で捺せばてのひらのかたちのなかに冬は息づく
新郎となりし息子へ黎明の冬の星座をひとつおしえる
些細なる影ひとつさえ欺かぬ真冬の水に浸す踝
■いつからか先を焦がした菜箸の微妙に曲がっている台所
■春風はかろやかに舞う 笑点の座布団持ちの袖を揺らせて
■たずねびとの文字もかぼそき東京を定刻どうりに往く山手線
君が波にさらわれぬよう海によく丸く浮かんでいるアレになる
隣席のグラビア遠く眺めいる 尽きたイエスの首の角度で
愛情で腹は充たせぬ黄昏にアンパンマンの唇を噛む
木を削る鉋の美しき律動の理由さえ知らず蝉は時雨れる
■落丁の本をたどれば廃館となって久しき図書館の印
一行の文につらなる千枚の余白に満ちる外房の海
■戻橋こえれば芽吹くさくらあり戻らぬものを置き去りにして
■2011.10/20〆
■ローソンの灯りがまるでなにごともなかったようにやさしくて泣く
ウニイクラ鮭のひしめく丼にすればよかった 会えてよかった
西梅田駅徒歩五分おもいでが膝をかかえて泣きじゃくる道
◎遠すぎる秋空をみる背泳ぎの足のつかないプールにひとり
■転居先不明の印を滲ませてとぎれとぎれに降る小糠雨
衣替え終えたるきみが脱ぎすてたかたちのままに夏を綴じゆく
■ありふれた西陽の柔き沈黙を蕎麦湯にのせて老父と分け合う
アスファルトを覆い尽くせぬ薄紅のはざまに見ゆるこの国の肌
綻んだポケットのまま過ぎ去った道のかしこにかすみ草よ咲け
■絶版となりし歌集の栞紐ほどけば夜にふる蝉しぐれ
■2011.09/20〆
はるかぜにフレアの裾を泳がせる少女のような元妻の声
■継がせゆく子もなき墓にて踝に吸いつく蚊おり殺さずにおく
■屈託のない西の陽を浴びながら元妻と食うきつね蕎麦 並
■横顔が老父に似ている酔客に二駅ばかり右肩を貸す
■久方の文をひらけばまっすぐな楷書に聴こゆる旧友の靴音
大根をひとりおろせば第四指の骨身に沁みてゆくだけの白
■一片の雲ひとつさえあざむかぬあおぞらに手をかざせばひとり
わたしにもゆめはありますベランダの如雨露のなかで飼う晦日月
■紀伊國屋書店の本の背表紙を片っ端から読んで忘れる
喧噪にとある家族の幻影をかさねる我に雨、横なぐる
結婚
結婚は俺を選んだ人よりも俺が選んだ人と遂げたい
再婚は俺が選んだ人よりも俺を選んだ人と遂げたい
パン
喉元をやんわり覆う友達のアンパンマンの顔の後味
濡れそぼるアンパンマンの目になって聞かされている別離の理由
取り替えの効く人生を疑わぬアンパンマンの命の重さ
アンパンに息を吹き込む技だけがジャムおじさんの現在(いま)を支える
物足りぬ返事に慣れたキッチンで少し固めに焼くくるみパン
Re,五右衛門 ふーじこちゃんと次元とで笑笑で待つ早よ来い(ルパン)
過去短歌(2008.0629)
「夏だね」
ソーメンを鼻から出せば鼻よりも君の視線が痛い冷たい
特大のアイスノンにて寝てみても冷やさなければ冷たくはない
夏らしくスイカ枕に寝てみれば首を寝違え病院へ行く
マジックの黒と緑でギザギザをあなたの丸い顔に描かせて
パラシュート花火にぎゅっと掴まって舞い降りてきたふるさとの伯父
花火より光が揺れる横顔を焼き付けながら見てた「夏だね。」
(2008.7.15)
田中邦衛
三度目のキスを欲しがるその顔が田中邦衛とダブり戸惑う
くちづけをねだるおまえがだんだんと田中邦衛に見えてきた夜
拗ねるとき田中邦衛に似る妻が今日三度目の冷麦を出す
とりあえず田中邦衛の話ししかすることがない三度目の夏
助手席で拗ねるおまえの横顔が田中邦衛に似て二度見する
過去短歌(備忘録一部)2001〜2011
わが肩にほろ酔う老父のかすかなる寝息を載せて終電はゆく
継ぎゆく人もなき墓前にて踝に吸いつく蚊おり殺さずにおく
横顔が老父に似ている酔客に二駅ばかり右肩を貸す
木を削る鉋の美しき律動の理由さえ知らず蝉は時雨れる
炭酸で割るターキーの泡沫のかなた、気高きアメリカを干す
秒針の止まった浜をゆく人の老いたイルカのようなまなざし
アスファルトを覆い尽くせぬ薄紅のはざまに見ゆるこの国の肌
眩しいほどにその影は濃く 強引な西日の縁にてのひらを割る
綻んだポケットのまま過ぎ去った道のかしこにかすみ草咲け
わたしにもゆめはありますベランダの如雨露のなかで飼う晦日月
過酷なる向かい風でもまわれ右すれば雄々しき追い風となる
ジャイアンを義兄さんと呼べば飛んでくる拳の甲の汗あたたかき
かくれんぼ -マグロ漁船の船底に潜んで五回目の夏がくる-
中指と人差し指を丁寧に揃えた指でお寿司を食べる
書き順は違えど同じかたちへと綴られてゆくふたりの単語
往年の月野うさぎの髪型の姉、颯爽と出戻りの夏
久方の文をひらけばまっすぐな楷書に聴こゆる友の靴音
チロルチョコ食えばチロルの風が吹くはずもなき夜を笑うふたりの
落丁の本をたどれば廃館となって久しき図書館の印
一行の文につらなる千枚の余白に満ちる外房の海
ヒーローの衣装に着替えそれを脱ぎタンスに入れてお茶を飲み寝る
やや欠けたおんなじ月を分け合えば引っかけ橋に灯りがもどる
守られているのであろう彼の人の咲かせる傘にふる桜雨
はるかぜはかろやかに舞う 笑点の座布団持ちの袖を揺らせて
大根を独りおろせば無名指の骨身に沁みてゆくだけの白
たずねびとの文字もかぼそき東京を定刻どうりに往く山手線
戻橋こえれば芽吹くさくらあり戻らぬものをおきざりにして
一片の雲ひとつさえあざむかぬあおぞらに手をかざせば ひとり
老画家はやさしき水を滲ませる とりとめもない痩せた穂先に
ゆびきりを交わした指のぬくもりにおちてはきえる一抹の雪
殻中の牡蠣に隠れてたまにいる蟹になるから嬉しがってね
父母の今日を西陽に焼きつけて残り少なき日めくりを繰る
団欒の灯に照らされた関電のおじさんの背に降る流れ星
あさがおの余韻のように終戦をかたりし祖母のやわらかきこえ
溜息を煙に混ぜて聞くことと聞けないことの線を彷徨う
涙目を隠して笑う長男がバナナの皮をまたひとつ剥く
色相のせつなを絞る一竹の辻を染めゆくひとひらの花
秋晴れの明日を約束してくれる夕焼け色の毛糸をえらぶ
西の陽に染め尽くされたこの部屋でひとり女が剥く落花生
さんざんに清しき鱗咲かせをり板上にいざ臥して候
あどけないおんなのくちに破かれるホットミルクの膜を見ていた
自らの影をかさねた母の背に柔き西日をみる墓参道
夕焼けは逆さにまわり巴投げ決めて去りゆく君の背に降る
しっかりと臓腑にきざむ 債権者たちの怒号と汗のただしさ
束ねたる三原則の矢をつがえ弾雨にむせぶ弓なりの島
木漏れ日の枝葉を透けて降りそそぐ詩の行間をまどろむふたり
夏休み中のすべてを浮き輪からすうっと放つひぐらしの空
まっすぐに歩道をわたる 三越のライオンを背に待つ母のため
土手をゆく金髪を追う先生を追う僕を追う金色の貘
塞きとめた元結い解けば流水のごと放たれし汝の黒髪
コンビニで煙草を買っておうちまで歩いて帰りお風呂に入る
ごはんとか作ってくれたりパンツとか洗ってくれてもいいよとか言う
あと幾度 柔き西日を母の背に焼きつけながらゆく墓参道
やさしさをふくむ西日が継ぐひとのなき自らの墓前を染める
100GBの秘密を捉え家政婦の鋼鉄の瞳がかすかに揺らぐ
安酒に浮かんばかりの色恋を干して拳の節くれを見る
岸壁に充電されて冴えわたる船越ロボの指先の錆
イヤホンのジミーが降らす夕立を”わなほらろら”と分け合うふたり
破裂したポストは空に滲みゆく 抱えきれないものを焦がして
放たれたもみあげリンクにこの星は田中邦衛で充たされてゆく
隣席のグラビア遠く眺めいる 尽きたイエスの首の角度で
ふたたびを誇る桜の紅よりも尚艶やかな寡婦の黒髪
嘘をつく時はかならずクロールでちからいっぱい目が泳ぐ人
横たわる空気を揺らし鼓膜へととどけ三十一の微粒子
最終のバスに乗ろうよ光年の果てにひかりを繋げる日まで
約束を欲しがる君に爆弾を落として見せる俺の夕焼け
雑踏にとある家族の幻影をかさねる我に降る小糠雨
タラちゃんが走ったときに出る音で今シーズンの彼を占う
春向きの窓から"Magical Mystery Tour"をぶっ放そうぜ ふたりで
春風にフレアの裾を泳がせる少女のような元妻の声
ミッキーは無言ではしゃぐ 涙など見ぬフリをする彼の男気
ひとり鼻メガネで過ごすクリスマス メガネのフチに溢れる祈り
持ち寄ってなんぼの世界。とりあえず俺の名字を共有せぬか
理屈ではおさまりつかぬ吾が胸に知ったことかと横殴る雨
君の瞳は星だね(それは君の瞳が☆の形という意味じゃなく)
責任は持てないからね。ドラちゃんの手は指きりをまあるく拒む
明け方の分娩室で「父親」を噛みしめたあの冬から「二十歳」
お夜食のドアを開ければエロ本を隠すノビ太の吐く荒い息
クーラーの効いたスタバとオブラート越しの涼しいマニフェスト 夏
遠雷にヘソを隠したあの夏の祖母の笑顔が滲む迎え火
クーラーの効いたスタバのあの席でワンセグで観る甲子園 夏
お互いを望遠鏡で覗き合う 木星人に二度見されつつ
どうぶつの森で待ってて 区役所に離婚届を出して行くから
時計とは逆に回した洗濯の渦 戻せない記憶がたわむ
水溜まり澱む水面の青空をしずかに映すただしきちから
パジャマ着てナイトキャップで外へ出る女は必ず腕組みをする
バカボンのほっぺのようなぐるぐるの目で聞いている空洞化説
タラちゃんの着ぐるみを着てサザエさん夫妻の横で眠りたい(嘘)
もし羽根があったら君の街へ飛ぶ。(羽根がなくても行けるんだけど)
薄暗い場末の店で久方の再会 彼の源氏名・恵
ふわふわな綿毛のようなバカボンのパパの鼻毛に巻かれて眠る
颯爽と光GENJIのスケートは駆け抜けてゆき ヅラ跳ね上がる
パレードのリズムに刻むもう二度と会えぬ吾子との日々をかさねて
ホームランバーのアタリを薪にした贅沢風呂に酔う小市民
印籠を失くしたようなピンチさえチャンスに変える黄門でいて
羽田発 三月 離陸 この街を撫でる機影に込めるサヨナラ
屈託のない西の陽を浴びながら別れた妻と食うたぬき蕎麦
軽やかにワルツを舞えば右耳毛〜左耳毛が時間差で追う
すごいやん言うておまえが跳びはねる クレーンゲームで掴むシアワセ
取り替えの効く人生を疑わぬアンパンマンの命の重さ
ハードコアロックに合わせ腰を振り今こいた屁を薄めろハニー
骨付きのチキンにしゃぶりつきながら思い出してるあなたの鎖骨
会話するように僕等の足音が寄り添いながら雪を踏む。きゅきゅ
雨音に囃されながら唇の刹那を刻むハザードランプ
ヅラ(変なモミアゲ付き)をプレゼントされたとこから縮まらぬ距離
前席の良子のブラの×(バッテン)が暗示していた試験の結果
手といわず小指といわず薬指あたりに残る温もりが好き
どのくらい私が好きか酔いどれた岸田今日子の声で聞かせて
「手編みならいいよ」「なんでよ」欲しいのはこんな感じの未来の僕等
水たまり澱む水面の青空を透かして映す正しきちから
困らせる言葉を投げて投げられて僕等は個々にバランスをとる
原始人たちに神かと崇められタイムマシンが担がれてゆく
Noとしか返せぬ問いをその背なに祈りぶつける鏡面のなか
恋人はサンタクロース。キャバクラの看板を持ち夢を降りまく
磨り硝子越しに見ている家政婦を覗き見ている家政婦二号
ソーメンを鼻から出せば鼻よりも君の視線が痛い冷たい
手に残るその手のちから 我一人うばうことさえできぬその手の
キラキラをあのパラソルに綴じこめてバックミラーに遠ざかる夏
少しだけセレブな夏に憧れて優雅にすする中華三昧
一階と二階のはざま誰からも見えぬ死角で交わすくちづけ
料亭に呼ばれてみれば隣室に布団 解かれる帯にてまわる
先生になったら土手の先を行く金髪美女をまず追いかける
座ってるイスを微妙に動かして今こいた屁と同じ音(ね)を出す
友達が家に遊びにやってきてマンガばかりで無言で過ごす
ゆっくりと動き始めた特急に合わせて走る見送りの人
トーストをくわえて走る登校時 転校生と角でぶつかる
「犯人はあなたですね」とこの事件(ヤマ)の推理を明かす岸壁の上
「あら雪が降ってきたわね」硝子戸で暖簾をしまう女将見上げる
披露宴祝辞のあとに叔父さんが声高らかに歌う「マイウエイ」
・大きくて深く豊かな湖に育んで待つ この水溜り
・はじまりはたとえば蒼い冬の朝 小さく灯る暖気のように
・夕暮れの薄闇のなか僕たちはキャロルの音に洗われてゆく
・待つ人のいるたしかさをかみしめて輝け御堂 金色の秋
・向かい合う心ひとつに重なりて ただ鮮やかにサラダ色づく
・左手に残るあなたの温もりが浮き立つように街を彩る
・助手席のまだ温かい残り香と君に抱かれて走る霜月
・世界から隔離されたくファミレスの駐車場にて交わすくちづけ
・てのひらで繋がる鼓動 重ね合う想いを包め喜びの歌
・グラタンの湯気にふんわり包まれて甘い予感を分け合う僕等
・急速に冷凍されたものたちを甦らせる君のまなざし
]]>丼をかきこみながら無造作に俺の名字は嫌いかと問う
残された想い出たちが尾を引いて縋る双子座流星の群れ
居心地の良い僕たちがグラタンの湯気にほんのり身を任す午後
「ダイスキ」と言われる場面。「ダイスケ」と噛んだあなたに問う「それは誰」
軽率な自分を責める君の背に取り残されて佇むこころ
匂い立つ桜並木を焼き付ける 春をあなたの季節と決めて
一定に並ぶ街灯 ゆっくりと君へと続く道のたしかさ
露店でも買える指輪のふたりしか知らないものの持つ美しさ
どこまでが境界なのかわからずに下の名前を溶かす風花
「手編みならいいよ」「なんでよ」欲しいのはこんな感じの未来の僕等
塗り残すぬり絵 君とは完成の一歩手前を輝きたくて
いちごパフェふたつ並べてまだ少し早いイチゴを楽しむふたり
ラーメンに溜め息混ぜて 我だけに許すあなたの横顔が好き
問い質す。脆い卵の薄殻をいっそ壊してしまうが如く
簡潔にまとめられてる文章に省かれそして流される過去
ネスカフェをいれては笑う 安いけど等身大の僕等の夜明け
澄みきった真冬に保存されている美しすぎる記憶の痛さ
返信の字数も減った僕たちの隙間を稼ぐ無駄な改行
ワイシャツの冷たい朝にあんなにも熱かったその腕は醒めゆく
ラの音が好き 僕たちが奏でゆく未来を綴る はじまりの音
奇跡って言葉が似合う夜だから失くしたものを信じたいイブ
君の手が残す微かな温もりをこのポケットに探す東京
「やらなくちゃいけないことが多すぎる」ことにしといてあげるさよなら
ん で終わるしりとりみたい繋がらぬ会話を空へ放つ夕暮れ
念入りな嘘などつかれ 念入りの度合いで測るわたしの重さ
手加減を忘れたキスが舌よりもこの静やかな心に痛い
西麻布あたりを歩く これからのひとりぼっちを思い知るため
鼻先にあたる睫毛にくすぐられふたりひとつに分かち合う夢
いつだって甘えられたいこの胸の許容範囲を満たさぬ余白
たしなめてほしい時でも優しくて そして優しいだけのあの人
無言にて語るあなたの柔き背に許されながら愛されている
干涸びたサンドイッチがお似合いの安いサテンで恋を弔う
力学の実習(其の二)唇を寄せれば避ける哀しき反射
けだるさを唇にのせ事務的に押し付けられる面倒くささ
バラ色の君の未来は素敵だね 私が居ないことを除けば
どうすればいいのかなんて聞くくせにどうしたいかは言わないあなた
溜息を煙に混ぜて聞くことと聞けないことの線を彷徨う
スパゲティボンゴレ味のくちづけを優しく包むオリーブの風
テレビさえ消せない部屋で残された頬の痛みに吹く砂嵐
鼻先の君の寝息に片頬をくすぐられつつ眠る右腕
デニーズのドリンクバーで欲しくても手の届かない恋を弔う
携帯の二度とは鳴らぬメロディを聴かされながら歩く新宿
来年の約束だとか未来とか 優しいだけの遠い口先
乗り上げた歩道 寄せ合う唇の刹那を刻むハザードランプ
渋谷行きホーム・19時 守られぬ約束だけが今も彷徨う
ズキズキと鼓動が伝う傷痕が癒えゆくことに抗うこころ
絵はがきに書かれた文字を追いながら心の指でなぞる温もり
苦しみを気付かせまいとする君の他人行儀に遠い優しさ
手つかずのアールグレイは冷めてゆく 波紋ひとつも起こせぬふたり
留守電に残るあなたの声を聞く ふたりぽっちをかみしめながら
うしろから抱き寄せる肩 浅はかな自分ばかりを責めるあなたの
遠慮して言葉を選ぶ優しさが他人行儀に虚ろに響く
いい天気ってのんびり声で空なんか見ててやるから泣いてもいいよ
デンジャラスゾーンの意味もわからずに地雷の海をスキップでゆく
金太郎飴をスライスしたようにいつも優しい それだけの人
豆を撒く右の手首のスナップの効かせ具合で呼び寄せる福
言い返すことさえしない君を抜け吾が問いかけが冬空に消ゆ
”泣いている自分”に酔って泣いている君にとっての私の軽さ
嫌われるその寸前の境界を確かめたくて振り払う指
惰性にて動く乾いた指先をドラマのように見る鏡越し
無口にはなれない君の饒舌にならざるを得ぬ理由の深さ
でも という言葉に怯え喉元が持て余してるたった二文字
ぬくもりの残るコートを羽織っては君に抱かれて歩く十月
天空に降る星たちが唇を逸らす貴女の頬に輝く
過ぎ去ったものだけが持つ輝きがバックミラーに遠ざかる夏
ラマーズ法。その息継ぎを真似ながら対米輸出戦略を練る
大リーグボール養成ギプスなどせめて食事のときくらい取れ
手始めに醤油を皿に取り分けて我の土俵で挑むムニエル
「ロマンス」で連想できるもの..熱海・温泉・不倫・ワケあり女中
「返信のハートマークが少ないゾ」 燃費の悪いアメ車の前で
強がりを言うフリくらいしてあげる君が優位に終われるように
持て余す余韻 貴女が匂いたつ吾が中指の第二関節
かすみゆく爆音遥か青空へ終戦の日の球児はつらつ
手鏡を曇らす君の溜息が先延ばしするふたりのなにか
ランニングシャツなんだけど阿部君はタンクトップと言って聞かない
賑やかな帰省のニュース なんとなく取り残された感覚が好き
適当に日々はせわしくサミシイとサミシクナイの線を彷徨う
離れみてはじめてわかる 君のこと何も知らない我が佇む
行ったことないけどわかる君の目のフィルター越しに聞く遠い海
水泳の帽子を被る我が影の予想以上の頭の丸さ
留守電に嘘ひとつさえ満足に残せぬ君の裏返る声
艶やかな内出血のその跡に二時間前の貴女を辿る
空色の服を見送る25時見えぬ心はそのままにして
時間だけ無闇に過ぎる 何事もなかったことにできぬ僕等に
やはりとかでもとかそんな言い訳を聞くにはすこし不似合いな空
しりとりは僕等にとって肝心な言ノ葉ばかり避けられてゆく
今できることをするだけ 待つ ということの痛みを噛み締めるだけ
目障りなあなたの嘘を冷めきったカップの渦に溶き流す午後
雷雨って予報ははずれ 何もかも半端なだけの君の優しさ
nobody歌えぬ歌をシャウトする スパムの波を蹴散らしながら
丼につかまる君の不器用なその温もりに包まれてイブ
いつもそう しとねに揺れる君のその目に溢れゆく大粒の過去
「致命的」なにかに欠ける僕たちは温き夜長にただ風を待つ
利子だけじゃ生きてはゆけぬこの胸を満たせるだけの君が足りない
「いつか」って逸らすあなたのしなやかな爪痕ひとつ残せぬ心
時計にも抗えぬまま一秒がまた遠ざける君という日々
ルゴールで焼かれる喉の左下 すっぽかされて持て余す熱
羅針盤なんかは捨てて漕ぐ舟の君の背中が振り切れぬ過去
リキュールの香る甘さに包まれたそのぶきっちょな優しさが好き
留守電に残るあなたの事務的で余計なものを寄せ付けぬ声
停車した路肩 あなたとしなやかに流れる道をはみでたい夜
積み上げた根雪のように春夏を過ぎても溶けぬ君との月日
酎ハイのレモンは沈み 静寂がもはや酔えない僕等を包む
うん としか言いようのない質問を投げかけながら欲しがる 否定
生きていてくれさえすればそれでいい人間なんて弱くてなんぼ
Yahooにも検索されぬ透明な空冷式の翼が欲しい
喜ばすことを至上に思うとかそれが誰かを傷つけるとか
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2005.11
鼻先をこすり合わせて唇の一歩手前を漂う我等
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2005.10
手鏡に映って見えるくしゃくしゃのティッシュの白がきれいかなしい
地球儀をくるくる戻す なにもかもまだ許された頃のわたしに
とりあえずベタですまんが目にゴミが入ったようだ取ってくれ(チュ)
無作為に睫毛と鼻を寄せあえば視界すべては君に息づく
いつもそう しとねに揺れる君のその目に溢れゆく大粒の過去
大切なことはたとえばそのバスが残した風を忘れないこと
ケンタッキーフライドチキンを指先で持て余しつつ聞かされる嘘
愚痴ってもいいよ たとえばこの星でわたしひとりに聞かせるのなら
神田川俊郎秘伝恋愛のレシピを俺にくれ。いや、ください。
リモコンの電池が切れて君よりもむしろわたしが予想を越える
理由など言えないとこが君らしいことにしといてあげるサヨナラ
苦しさを気付かせまいとする君の他人行儀に遠い優しさ
手といわず小指といわず薬指あたりに残る温もりが好き
蒸せかえす空気 かつての頼りない想い出だけを探す人混み
羽田発025便 あの街を撫でる機影に込める サヨナラ
地球 月 火星くらいの距離感で同じ光を目指す僕達
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2005.9
熱 それは 想いの数を測るもの変わらぬ君を基準値にして
しあわせといえばそうかも 激辛のカレー程度でまだ許せるし
うしろから抱き寄せる肩あさはかな自分ばかりを責めるあなたの
手短かに済ませる声の行間に滲み出ている面倒くささ
肩ごしに見えていたのは未来でも過去でもなくて夢の泡沫
たしなめてほしい時でも優しくて そして優しいだけのあの人
大切なことはたとえばユニクロの叩き売りでは語れない愛
ミッキーのパレードは行く 遠ざかる君を両手で抱き寄せながら
カーネルに罪など全部おし着せて道頓堀へぶち込めハニー
印籠を失くしたようなピンチなどチャンスに変える黄門でいて
イルカちゃん達の背中に乗ったまま降りられなくてアフリカに着く
タラちゃんが走ったときに出す音が悲鳴を上げる膝の古傷
タラちゃんが走った時に出す音で彼の調子の度合いを測る
溜息を煙に混ぜて聞くことと聞けないことの線を消し去る
利子だけでわたしは生きる。でもそれは君の口座の預金だけれど
「月並みな言い方だけど」言い方は月並みだけど特別な人
ヨン様になりたいけれどヨン様はたぶん俺にはなりたがらない
ロマンスカー熱海温泉逃避行ワケあり女中の出す海の幸
「ロマンス」で連想できるもの..熱海・温泉・不倫・ワケあり女中
ミリ単位以下の些細な間隙を縫うようにしてボケにツッコむ
見てしまうことを怖れぬ家政婦の見られることに慣れぬ恥じらい
家政婦が「見た」とかいって大騒ぎするくらいなら見なきゃいいのに
見られたらすぐに白状してしまうあの家政婦の瞳のちから
千駄ヶ谷駅徒歩5分想い出が膝を抱えて泣きじゃくる道
イクラちゃんタラちゃんカツオワカメちゃん彼等に託すわたしの老後
イクラちゃんタラちゃんカツオワカメちゃん彼等の肩にのしかかる税
ロボットが欲しい いろんな小道具が仇になっちゃうネコ型のやつ
ロボットはやはりわたしの自立する気概を奪うネコ型がいい
誰からも愛されたいし誰もかも愛しちゃうけど愛していてね
一番に愛してほしい 一番に君を愛せるわけじゃないけど
象印マホービンってすごいよね魔法の瓶だよしかも象だよ
涙腺が刺激されちゃう場所なのにへっちゃらすぎて逆に悲しい
底辺に高さをかけて2で割ってあいつと君の想いを測る
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2005.3
3月17日
風 光 夢 そして君 掴めないものばっかりを持て余す春
3月16日
買ったことさえも忘れた牛乳が呪いのようにどろりと腐る
3月11日
波平の頭にすればもう君に逢いたいなんて気も失せるかな
3月10日
春の陽を浴びては街を闊歩して部屋に戻れば寂しいうさぎ
3月9日
きらきらとちょっと眩しい春の陽が穏やかすぎてきれいさみしい
3月9日
どんなにか素敵な過去も若干の寂しい今に勝てそうにない
3月8日
20年前の憧れ西陣の帯解くきみの白き柔肌
3月7日
考えて解るのならば考えて解る程度のものなんだろう
3月6日
ヤキモチを特製手前味噌で灼くときに漂う目に沁む痛み
3月5日
汝を囲む空気にさえも灼くコレは恋したときのソレに似ている
3月4日
寒いってなんでも保存できそうでいいよね肉も野菜も恋も
3月3日
由美かおる嬢を横目で見るときの黄門様に垣間見る 素
3月1日
立ち回る時はすかさず黄門を盾にしながら敵を討つ 技
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2005.2
2月27日
黄門の全国行脚に寝坊して取り残されたような寂寥
2月24日
資本主義視点でみれば主人公スネオ社長のサクセスマンガ
2月23日
その胸に顔をうずめて我が国の対米輸出戦略を練る
2月22日
不死鳥のように愛する不死鳥がどんな鳥かは知らないけれど
2月21日
アンドレが好き でもそれは往年のプロレスラーのそれではなくて
2月20日
星飛雄馬みたいな燃える目で君に迫る引かれる落ちる食う寝る
2月19日
その骨が軋むくらいに抱く 骨が折れたらそれはそのときのこと
2月18日
一徹に明子を嫁にくださいと言えるくらいの勇気が欲しい
2月17日
君のそのハートを掴む難易度は消える魔球を打つほうが楽
2月15日
くりくりのパーマをかけてベルサイユ宮殿等をのし歩く夢
2月14日
自らの為替の価値が試されるチヨコレートという名の相場
2月12日
君が死ぬ走馬灯にはできるなら笑顔の俺で走らせてくれ
2月11日
とりあえず君が死ぬとき2番目に思い出される男になろう
2月10日
ちょっとづつ変なキノコの毒を盛るなんだかちょっと頼りないけど
2月9日
襲いたい時にはちゃんと襲わせてくださいと言う律儀な男
2月6日
伝えたい言葉を伝えたいときに伝えさせてもくれない貴女
2月3日
波に汝が攫われぬよう海によく丸く浮かんでいるアレになる
2月2日
ひとつだけ呪文を覚えられるならルーラ貴女の元へ飛ばせて
2月1日
一ヶ月遅れくらいがちょうどいいなんて嘯く三十一文字
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2005.1
1月27日
詮索をされても平気俺はまだなんにもわるいことしてないし
1月26日
このまま を今は楽しむお手軽な解決策は先に延ばして
1月25日
ポロシャツのボタンを全部とめながら人生論を語る先輩
1月22日
待つことに救われるのは待つことを許されていることに対して
1月21日
勝利したわけじゃないのに暫定で王者になった気持ちの悪さ
1月20日
見せあった余裕がいつか尽き果てた時にほんとのふたりが見える
1月19日
コップから溢れてしまうものたちの中にこそ在る本当の我
1月18日
晴れ渡る空が蒼いよ これ以上望む余裕も与えぬほどに
1月16日
愛という言葉を桐の箱に入れ防カビ剤を入れて備える
1月15日
あともどりできないところまでもっと 成層圏を越えて飛べたら
1月14日
スコッティティッシュは白い箱が良い こだわりなんか所詮ちり紙
1月13日
しあわせになっては困るその訳は俺の出番がなくなるからだ
1月12日
なにげないことなんだけどしっくりと来る感覚が一番大事
1月11日
あの頃と同じ名字のあの人はあの頃の目で俺を見つめる
1月9日
寂しさを思い知るためちらかった部屋を綺麗に片付けてみる
1月8日
一日を終え靴下を脱ぐような開放感で見る曇り空
1月7日
温水のプールは嫌い疲れるし変な帽子も被らなきゃだし
1月5日
あ、そう と貴女に言われちゃいそうな事ばっかりを思い出してる
1月4日
なんとなく今年の計が見えてきて乗り切る術を模索してみる
1月3日
占いは嬉しい事が書いてある方を信じて思い込ませる
1月2日
筆跡を指で辿れば今やっと出会えたような同じ年月
1月1日
あけましておめでとうって本当にめでたい年になったらいいな
2004.12
12月31日
来年もよろしくお願いしますっていうかお願いさせてください
12月30日
来年もよろしくお願いしますって社交辞令じゃなくそう思う
12月29日
筆文字で書く年賀状一番に逢いたい人を最後に残し
12月28日
大掃除忘年会と恙無く仕事を終えて会社で眠る
12月27日
年末も押し迫ったという声に押し迫られてたまるかと思う
12月26日
待つ ということが素敵に思えたら俺のなかでの君は永遠
12月25日
人生を逆算してはなんとなく急かされているような気になる
12月24日
気付いてる気持ちにそっと足並みを揃えるようにメールを送る
12月23日
たまに来る波を避けつつクリスマスツリーにそっと灯りを点す
12月22日
がんばっている理由などがんばっている意識さえ無いから知らぬ
12月20日
縋りつく藁を間違えその藁に追われて逃げる脱兎の師走
12月19日
自らの道を選んだ少年の選べた事を誇りに思う
12月18日
気になっているのは君の性格が俺に似ているからだけじゃない
12月17日
大切に綴られてゆく想い出に閉じこめられてしまいたくなる
12月16日
クリスマスツリーの枝に何事もなかったように飾る短冊
12月13日
代替えになるものなんかない事を思い知らせるだけの追憶
12月12日
言い聞かすことにも慣れて切り口の違う理由を探してみたり
12月11日
「奥さんに逃げられちゃったらしいわよ」「そうなんですか」「らしいわよ ぁ」「ぇ」
12月10日
国民がひとつになって正月を目指して走る極東の島
12月9日
豚肉の入っていない豚汁を箸でぐるぐる探す少年
12月8日
バカボンのほっぺのようなぐるぐるの目で読んでいる坂口安吾
12月7日
「最近はどうなんですか」「普通かな」「何が」義姉と焼肉を食う
12月6日
「いい仕事するねさすがに超高校級だね」「いやあ ...高校級かい」
12月5日
いっぱいになれば重いし溢れるし小さなコップみたいなこころ
12月4日
溢れたらもったいねえってすすり飲む小さなオヤジみたいなこころ
12月3日
声優が変わっちゃってもドラちゃんはそのまま器用貧乏でいて
12月2日
着実に薄れゆくものそうそれが良い事かさえわからぬままに
12月1日
師走っていうイメージに流されずゆったり歩く-アポに遅れる
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2004.11
11月30日
義理なんて変な言い方なんだけど義理の姉貴が来るって噂
11月29日
もし兄に子供が生まれたらきっとボブにいさんって呼ばせよう。何故
11月28日
外国の兄から届くメッセージ "enjoy" 何を楽しめってか
11月27日
"兄さん"ってなんだか先輩芸人を呼ぶようだけど実の兄です
11月26日
長編のシリーズものを大切に読み始めるって決めていた今日
11月25日
ちらちらと揺れる夜景に寒冷気澄みゆく気配君の住む街
11月24日
鬼太郎の髪型にして笑いさえとれない時はどうすればいい
11月23日
感情のない平坦な文字なのに君の呆れた笑顔が見える
11月21日
往年のマッチみたいに袖口をたくしあげたら笑う?スーツの
11月19日
乗ったことないはとバスでおじいちゃん達に囲まれ旅したい(嘘)
11月18日
夕焼けがキレイ綺麗にまとめればいいってもんじゃないのにしては
11月17日
ハンカチのその一角をくわえつつキーッって怒ってみたい気もする
11月16日
カルシウム不足が怒る素だって言われて飲んだ牛乳で下痢
11月15日
冷えきった朝の大気に精霊を流すみたいに放つ幻滅
11月14日
バカボンのパパの口調を真似たって社会が良くなる筈もないのだ
11月13日
善行に酔う募金箱利用してされてこの世は成り立っている
11月12日
「コンビニへ行ってくるけどなんかいる?」「ガリガリくんが欲しい」「なにそれ」
11月11日
安売りのタイムサービス人生の運を小出しに使う日常
11月9日
「片足と髪の毛のない友達ができたよ今度紹介するね」
11月8日
「髪の毛は抗ガン剤で抜けました」青年の目のひかりの強さ
11月7日
栄養の心配をする母からの野菜ジュースが死ぬほど届く
11月4日
丼をかきこむ野球少年の箸を持つ手が仄かに男
11月1日
片手でも作れるようになったカレーでも片手だと疲れるし嫌
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2004.10
10月31日
コーヒーのおまけの黒いミニカーはおまけ程度のミニカーだった
10月30日
目覚ましですぐに起きれる日もあればなかなか起きれない時もある
10月29日
以下略で済ませてしまいたい過去に携わるひと十把に絡げ
10月25日
不安って本気と比例してるからその不安さもまんざらじゃない
10月24日
永遠が良いものだって前提を疑うことで始まるなにか
10月22日
艶やかな内出血のその跡に二時間前の貴女を辿る
10月20日
結局は許せる許せないだけですべてのものは測れてしまう
10月19日
あの人もこの人もそう俺だっていつか死ぬって思えば気楽
10月18日
ステージをクリアしてゆく階段を昇って休んで昇って昇る
10月16日
知らぬ間に貴女のクセを真似ている事が嬉しい意識無意識
10月15日
時計とは逆に回した洗濯の渦に過ぎ去る記憶をすすぐ
10月13日
体調を煙の味で推し量るセブンスターをバロメーターに
10月10日
振り翳したい衝動を顧みてその脆弱を恥じたる正義
10月7日
言い訳にならぬ言葉を探しては探し疲れて寝てまた起きる
2004.8
8月31日
そのあとで煙草を吸っている我をドラマのように見る鏡越し
8月27日
心臓の音を重ねて激しさを増すバスタブの水の水圧
8月24日
目の端に溜まった水を気付かせぬために眩しい夏の陽は降る
8月21日
あの空が永遠だってわかってるその後に雲が翳ったことも
8月19日
改めて強さなんかを意識せぬくらいにもっと強くなりたい
8月18日
碧色の硝子に問えどあの人の連絡先は知る由もなく
8月15日
逢いたいと思う心を遠くから見守ってゆく力に替えて
8月13日
なんてことなかったように笑い合う小さき腕に点滴の痕
8月12日
偲び合うことのもっとも心地よいその距離感を測る僕達
8月11日
南港の海はいつでも優しくて心のなかの君が重なる
8月10日
ちょっとだけ心の皮膚が薄くなる予感 明かりを消さずに眠る
8月9日
夕暮れのスーパーのその雰囲気に慣れたレジにて小銭ばらまく
8月8日
取り込んだ洗濯物をたたむとき折り目正しき人物となる
8月7日
土曜日も日曜もなくただ其処に立ちはだかるは晩の献立
8月5日
守られる事のなかった約束をしたことさえも君は忘れる
8月4日
連絡のとれない人も平等に夏は過ぎゆく ひとりひとりの
8月3日
思いきり甘えられたい心には許容範囲を満たさぬ余白
8月2日
作る気がしないひとりの食卓で鍋ごとすする中華三昧
8月1日
降り注ぐ光のなかで昨年の夏彩りしあの歌を聴く
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2004.7
7月31日
夕焼けに染められたくてあてもなく西へと向かう七月末日
7月30日
柔らかい思い出という薄皮に騙されながら疼く傷跡
7月29日
鈍痛と引き換えにしてこの胸に守り通した微々たる誇り
7月28日
もう捨てるものなどないというように少年の目に男が宿る
7月27日
雨の日の記憶は空へ返りゆき再びやがてこの胸に降る
7月26日
つつましく撫子風に 待つ という同義としての他力本願
7月25日
これ以上自分を堕とさないための歯止めとしての学習能力
7月24日
繰り返す呼び出し音は叩いてはいけないドアのように無機質
7月23日
緩やかなカーブを越えて思い出はその傷さえも過去へ押しやる
7月22日
勝ちに行く旅路の途上 少年の視線の先に拓き青空
7月21日
変わらない夏のパズルの一片が欠け落ちたまま夏を迎える
7月18日
もう今年最後のプールサイドには小さな影を名残る夏風
7月17日
こわいこと不安なことを溶くように少年の目に花火咲きゆく
7月16日
この夏の残りも僅か 一陣の風をも惜しむ少年の頬
7月11日
いきなりのプールの空の夕立ちを浴びる 君との夏を惜しんで
7月10日
溜息をわからぬように吐く君に見せないように傷口は開く
7月9日
靴音のけだるさに見る 今きみにとっての僕の必要の無さ
7月7日
望めども叶わぬ夢と知りつつも七月七日織姫何処
7月6日
時間だけ無益に過ぎるなにごとも無かった事にできぬ僕等に
7月5日
留守電へ繋がる夜の言い訳のわかりやすさがやりきれぬ嘘
7月4日
手に残るその手のちから わたくしを奪ふことさへできぬその手の
7月2日
夕暮れのネオン煌めく新宿に染み付くように息づく昭和
7月1日
毎日をただつれづれに綴りゆきやっと三百六十五日
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2004.6
6月30日
「いいよ」って言葉の裏のなんとなく突き放された感覚が嫌
6月29日
似ていない人を彷徨う夕暮れは優しさまでがあの人に似て
6月28日
口早に喋る部分の逆説を辿れば見えるあの人の影
6月27日
生きるとは切り開くこと 少年の泳ぐその手がつくる水沫
6月26日
装丁や内容よりも共有という意味を持つ本を購う
6月25日
読みかけの本の栞に残されたあの日の疵があの日のままに
6月24日
安定は良い事だけど安定に安住しない生き方が好き
6月23日
この次に逢う口実を作るため耳へのキスを忘れてみたり
6月22日
時間差がないってことを確かめるようにおんなじ雨を見ている
6月21日
大風にこの身を晒し身体中あなた以外のものを消し去る
6月20日
まだ早い夏を身体に吸い込んで泳ぐ小さき手の逞しさ
6月18日
台風が来るらしいって聞いたって信じらんない青空の下
6月14日
忘れてはいけないことを噛み締めて目に焼きつけるひめゆりの文字
6月13日
この夏の分まで泳げゆるやかに君だけにしかできぬ泳ぎで
6月11日
お仕事が終われば帰るそれだけで真面目さに酔う日帰り出張
6月10日
とりあえずすべてを俺のせいにしていいからつまり傍に居てくれ
6月9日
梅雨なんか忘れたような晴れた日に夢のカタチを確かめる朝
6月8日
花達が輝くようにしとしとと雨は優しさだけを残して
6月7日
ネクタイを緩めた首の隙間から夏の匂いを取り込む月曜
6月6日
地図上で見れば小指の先ほどの距離がなおさら痛い逢いたい
2004.3
3月29日
慣れだとか習慣じゃない ずっしりと鉛のように沈む欠落
3月24日
いざという時のためにと爪を切る いざというそのいざってなんだ
3月23日
読み終えてまた最初から読み直すことさえできる 小説ならば
3月22日
日の過ぎてゆくスピードに抗いて暮れゆく道にこころ彷徨う
3月21日
忘れなきゃいけないことと知りつつも心は空へ泳がせている
3月19日
昨年と今年の春を比べては占ってみる しあわせ度数
3月14日
休日の良いお手本にできるほどお行儀がよくつまらない空
3月9日
忘れさせまいと吹き寄す北風に掘り起こされて彷徨うこころ
3月7日
降る雪の白さ嬉しき事よりも 寒さに浸りたくなりし午後
3月4日
息を吸い想いがそっと漏れぬよう静かに息を吐くような日々
3月3日
偶然のような泡沫(うたかた)吾が夢を流るる川の草舟に乗せ
3月2日
わけもなく寒の戻りし風を受け戻らぬものの何に焦がれん
3月1日
太陽を味方につけてゆく我を阻むものなき怒濤の弥生
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2004.2
2月29日
精魂を傾けすぎて美味いのか否かも知らず作るラーメン
2月28日
20年ぶりのサ店へ立ち寄れば お久しぶり と店主の笑顔
2月27日
昼日中 早く来すぎた神戸にて「牡丹と薔薇」に腹を抱える
2月24日
出張のホテルの部屋にノーパソを打ち込む音は溶けゆきて朝
2月23日
最終の第4コーナー回りつつ我の手綱は緩めぬ月曜
2月22日
2月22日ゾロ目のこんな日を記念日にして愛を告げたく
2月21日
週末もウィークデーも変わりなく仕事の山も相変わりなく
2月20日
暦など置き去りにしてせっかちな陽は既に春 そう また春が
2月18日
目の前の仕事の山を蹴散らしてたまには挫けそうにもなりて
2月16日
吹く風に信ずると書く「風信子」(ヒヤシンス) 汝に届けたき想いのままに
2月14日
自分には関係ないと嘯(うそぶ)いてバレンタインを誰よりも待つ
2月13日
サーバーの異常に於けるピンチさえ チャンスに変える生き方が好き
2月12日
月曜と間違えること二回半 嬉しがったり焦ってみたり
2月11日
牛丼の食えなくなった記念日として本日の祝日はある
2月10日
春色の汽車に乗ってという歌がなんだか似合いすぎる火曜日
2月9日
手袋に包みて歩く右手さへ 汝(な)が左手を欲しがる街路
2月8日
連絡のとれない日って位置づけてみれば憎らし 日曜の午後
2月7日
変わらない想いをそっと照らすよう あの日と同じ月は昇りぬ
2月6日
シアワセをあげるね そんなものくらいしかあげられるものがないから
2月5日
曇りのち雪降りてのち小雨のち 終わり良ければ全て良き 晴れ
2月4日
君だけを案じて走る俺の目にテールランプの赤が眩しく
2月3日
太巻きを東北東に向いて食い君の元気を祈る節分
2月2日
如月という言葉ってかっこよく思う 鋭く そして切なく
2月1日
如月になるとかならぬとかよりも逢えぬ月日を数えてばかり
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2004.1
1月30日
週末は良い天候が続くとか嬉しいことを言うテレビジョン
1月29日
火をつけてすぐに揉み消す吸い殻が気になっている心は何処
1月28日
すいようび 流れる水のような日と想いを込めて読む水曜日
1月27日
逢いたいという想いだけポケットに忍ばせ歩く堺筋沿い
1月26日
それなりに日々は忙(せわ)しく 寂しいと寂しくないの線を彷徨う
1月25日
絶対という言葉など信じない 信じないから祈る絶対
1月24日
なんとなく別の意味でも見てみたい海洋深層鼻水の色
1月23日
鼻水を栞に替えて読む本は次に読むとき開かずと知る
1月22日
鼻水をプロペラにして我だけの果てなき空へ君を誘(いざな)ふ
1月21日
よしぎゅうでカレーを食おうあの空に夢馳せおりし少年の瞳で
1月20日
フレディマーキュリーとセーラーマーキュリー似ているようで似て非なるもの
1月19日
多分そう二日酔いには辛かろうフレディマーキュリーの声高く
1月18日
焼肉を300グラム昼間から食い過ぎてのち午後はお昼寝
1月17日
紀伊国屋書店で5冊購(あがな)いし本をサテンでひとり読む午後
1月16日
山手線品川駅を過ぎしころ新たなる陽の産声を聴く
1月14日
日付けなど別に入れても入れぬでも短歌日記は書けると気付く(遅)
1月13日
かじかんだ指にて開く新聞の天気図を見る1.13
1月12日
哀しきは安く売られし想いとぞ軽き一月十二日の
1月11日
爽やかに東雲(しののめ)吹くにまかせおり睦月十一日の蒼天
1月10日
心には清(さや)けし海の蕩々と睦月十日の我を包まん
1月9日
あしたにはもっと満ちゆく月を見て満たされおりぬ睦月九日
1月8日
井戸端に流す程度の想いならたかが井戸端一月八日
1月6日
一年の助走 ゆるりとギアを上げ睦月六日に君が名を呼ぶ
1月5日
御堂筋年始回りの人波に呑まれてゆかむ一月五日
1月4日
一年の仕事始めをひと気なき街にて迎ふ一月四日
1月3日
生駒山越えれば遥か大和路の奈良へと向かふ一月三日
1月2日
兄妹が次々と逝く母親の笑顔寂しき一月二日
1月1日
新しき年を迎えし元日に変わらぬ想ひ確かむる朝
2003.12
12月31日
大晦日この一年の過ぎ去りしものの全てに多幸を願う
12月30日
十二月三十日の大掃除 連れゆかぬもの断ち切り捨てん
12月29日
十二月二十九日この年の仕事納めを穏やかに終う
12月28日
十二月二十八日賀状とぞ版彫り終えて墨をしたたむ
12月27日
十二月二十七日点滴を打つ我の身に冬の風吹く
12月26日
十二月二十六日部下のためチャリ購いて労を労う
12月25日
クリスマス明けの二十五日には早や正月の色濃き日本
12月24日
きらきらと賑わふ色が吾と君をひとつに包むクリスマスイブ
12月23日
十二月二十三日満ち足りた時過ごしおり聖夜イブイブ
12月22日
十二月二十二日の一週で仕事納めと思えば忙(せわ)し
12月21日
十二月二十一日年の瀬もあと十日だよ全員集合
12月20日
十二月はつかテレビをなんとなく恋うる目で見る内田有紀嬢
12月19日
十二月十九日に賀状とうものの在りしを思い出す我
12月18日
十二月十八日はそれなりに忙(せわ)しく過ぎて 曰く年の瀬
12月16日
十二月十六日の夕刻にMAC新たな産声をあげ
12月15日
十二月半ば 今年の三週にスパートの土 蹴上げて進め
12月14日
師は走る走れば走れ走るとき健脚見事 師走十四
12月13日
華やかに心斎橋は息づいて師走十三日を彩る
12月12日
十二月十二日空は雨模様 書生の如く新宿を往く
12月11日
十二月十一日の水曜日マッキントッシュの亡骸を抱く
12月10日
十二月十日ゴト日に銀行へゆくも金無く じっと手を見る
12月9日
十二月九日ここのかココノカと舌噛みおりて涙目となる
12月8日
真珠湾 師走八日の号砲は戦後生まれの耳には遠く
12月6日
十二月六日土曜日会社にて過ごせし我にパンダの目キラリ
12月5日
十二月五日ゴト日の週末に道混みおりてパンダ地団駄
12月4日
十二月四日ヤモメの再来に 伝家の宝刀 割烹着を出す
12月3日
十二月三日パンダの人形に癒し癒され愛し愛され
12月1日
ああ師走 ああ忙しないと言ふ奴に限って暇な師走一日
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2003.11
11月30日
この月にあった事など振り返りつつ霜月は幕を閉じゆく
11月29日
鬼門とぞ想ひし月もあと僅か霜月二十九日土曜日
11月28日
梅田にてCDを買う神楽月二十八日 歌姫を聴く
11月27日
そういえば何をしたかも思い出せない霜月の二十七日
11月26日
車内だけ昔のままに 神楽月二十六日兄達を乗せ
11月25日
神楽月二十五日はゴト日ゆえ道は混みつつ電話は易く
11月24日
神楽月二十四日の半分を仕事に充ててあとを惚ける
11月23日
連休を会社で過ごす神楽月二十三日贅沢に酔ふ
11月22日
一年って長いんですね(遠い目)と霜月二十二日は短し
11月21日
吾がことを吾で誉めおりぬ神楽月二十一日ヤモメよサラバ
11月20日
カレーかと思えばハッシュドビーフへとネタは尽きまじ霜月はつか
11月19日
おさんどん生活も慣れ神楽月十九日に悩む献立
11月18日
溜め書きが日常となる神楽月十八日を思い出しつつ
11月16日
神楽月十六日の蒼天に子らの奏でし音溶けゆかむ
11月15日
本年の残りし日々を数えおり霜月十五日の土曜に
11月14日
神楽月十四日晴れ梅田にて場所を選ばぬ相棒を買う
11月13日
神楽月十三日の神戸にはまだ早かりし聖夜の音(ね)の降り
11月12日
銀翼を虹の軌道に沿わせおり霜月十二日の汝に向け
11月10日
遠方の友来たりなば霜月の十日こころに春風や吹く
11月9日
霜月の八日に霜月九日の歌を詠みおり だからどうした
11月8日
意気込みはそうは長くは続かじと「霜月」ばかりの霜月八日
11月7日
「神戸へと仕事のために行きました」ガキかおのれは霜月七日
11月6日
八月の宿題すべて片付けるような霜月六日の日記
11月5日
「霜月」もそう容易くは使えまい なんて言いつつ霜月五日
11月4日
だんだんと三日坊主になりゆきて霜月四日の四日坊主に
11月3日
十一月三日月曜阪神のパレードは行くそぼ降る御堂
11月2日
十一月 二日日曜 曇り空 気温は高く 気分は低く
11月1日
いよいよに十一月の幕開きて七五調には鬼門の月か
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2003.10
10月31日
充たされぬなにかは全て十月に綴じて過去へと流してゆかむ
10月29日
野性とぞ思へる勘が吾が胸をつんざきおりぬ10.29
10月26日
色映えし季節を惜しむ十月の二十六日色に包まれ
10月20日
カレンダー残りも僅か疾(と)き一年(とし)の 十月二十日 そう今は秋
10月19日
寝て起きて仕事をしてを繰り返す十月十九日の日曜
10月18日
優勝の経済効果を天秤に10.18日本シリーズ
10月17日
神無月十七日の週末に御苦労さんと吾を労れり
10月16日
教科書の隅に描いた絵は今も変わらぬバカで10.16
10月15日
冬型の気圧配置と引き換えの蒼天十月十五日に
10月14日
十月の十四日付け大阪に秋の長雨長き雨降る
10月13日
体育の日という10.13は東京五輪の記念とぞ無く
10月12日
他人事(ひとごと)のよふに大阪御堂筋パレードは行く10.12
10月11日
幾重にも拓がりし花咲きほこり十月十一日を彩る
10月10日
ゆっくりと音色は柔く汝が耳に十月十日の一瞬(いま)を奏でる
10月9日
十月の九日特になにごともなく一日は過ぎさりゆかむ
10月8日
神無月八日の雲は去りゆきて夕暮れ美(は)しき秋を彩る
10月7日
汝を想ふために夜長は更けおりて十月七日こころ澄みゆく
10月6日
なにごとか嬉しき予感に包まれし週の始めの十月六日
10月5日
彼岸さへ過ぎれば寂し墓前へとメロン供えし十月五日
10月4日
十月の四日土曜日なにげなく秋は深まりゆきて涼風
10月3日
汝を想い描き見上げん中空に十月三日上弦の月
10月2日
ハンドルに秋色の風からませて十月二日御堂を往かむ
]]>
安売りのタイムサービス人生の運を小出しに使う日常
善行に酔う募金箱利用してされてこの世は成り立っている
艶やかな内出血のその跡に二時間前の貴女を辿る
溜息をわからぬように吐く君に見えないように傷口は開く
留守電へ繋がる君の言い訳のわかりやすさがやりきれぬ嘘
口早に話す部分の逆説を辿れば見えるあの人の影
読みかけの本の栞に残されたあの日の疵があの日のままに
似ていない人を彷徨う夕暮れは優しさまでがあの人に似て
「いいよ」って言葉に潜むなんとなく突き放された感覚が嫌
手探りの嘘があなたのほんとうを突く勢いで私に刺さる
靴音のけだるさに見るいま君にとっての僕の必要の無さ
逃げ惑う言葉を逃がすことでしか生き長らえる術もなき恋
安っぽい貴女の嘘を冷めきったカップの渦に溶き流す午後
地図上で見れば小指の先ほどの距離がなおさら痛い逢いたい
追憶は春風のせい そしてそう その春風が君だったせい
言葉とか気持ちとともに温もりを心の指で辿る便箋
傍目にはわからなくとも意味のある日々を重ねて積んでいこうね
似合わない青空背負う新宿の夢なんか見る点滴の午後
永遠は刹那切なの積み重ね一瞬ごとの君を刻みて
ここからじゃ見えないけれど君の目のフィルター越しに見る遠い海
いつの日か肩を並べてあの歌を訪ねてみたい山手のドルフィン
うにイクラ鮭のひしめく丼にすればよかった 逢えてよかった
言ノ葉が舞い散りやがて降り積もるいま君がいた広いベッドに
骨付きのチキンにしゃぶりつきながら思い出してるあなたの鎖骨
昨年と今年の春を比べては占ってみる しあわせ度数
20年ぶりのサ店へ立ち寄れば お久しぶり と店主の笑顔
息を吸い想いがそっと漏れぬよう静かに息を吐くような日々
雪道をきゅっと踏みしむ音が好き P.S 君とふたりなら尚
戒めに醜さだけを刻みゆく目を瞑らねば逢えない人の
俗に在る甘き記憶と綴じられて真実といふ言ノ葉は死す
わきまえる事を知りては引き潮に其の身を任す 醒めた大人に
慣れだとか習慣じゃないずっしりと鉛のように沈む欠落
想い出の店がたとえばうらぶれた場末のカフェじゃなくて良かった
あの店へ行けばいつでもあの頃に戻れるような 御堂 如月
死ぬことも厭わぬほどの出会いとぞ求めて生きることの輝き
しあわせになっては困るその訳は俺の出番がなくなるからだ
とりあえず君が死ぬとき2番目に思い出される男になろう
スコッティティッシュは白い箱が良い こだわりなんか所詮ちり紙
波に汝が攫われぬよう海によく丸く浮かんでいるアレになる
あともどりできないところまでもっと 成層圏を越えて飛べたら
筆跡を指で辿れば今やっと出会えたような同じ年月
夕闇のガラスに見ゆる君が背の我だけが知る銀色の羽根
きみの香が残りしコート羽織りてはきみに抱かれて歩く如月
次に逢ふ言ひ訳ひとつ残しをり途中で止める君のスケッチ
秘めやかな風が我等を溶かしゆくたとえばこんな五月の下で
この人と居ればなんだか幸せでネギラーメンの湯気の向こうの
希望的観測という夢を追い望遠鏡を覗くぼくたち
]]>2003.9
2003.9月30日
なにごともなく穏やかな秋色に包まれゆかむ九月末日
2003.9月29日
汝を想ふ心は澄みて晴れやかな九月二十九日の空へ
2003.9月28日
戯れ言と言うは容易き一言が欲しい長月二十八日
2003.9月27日
九月二十七日子らの歓声はただ真直ぐに秋空を駆る
2003.9月26日
暁闇の地震の報を聞く朝の9.26北国は遥か
2003.9月25日
雨音と天気予報を聞きながら九月二十五日は過ぎおり
9月24日
土砂降りの雲をえいっと押し退けて九月二十四日のあおぞら
2003.9月23日
祖先より繋がりて今我が血の濃さ想ひいる秋分の日に
2003.9月22日
吾が頭上雲ひとつなき秋空に九月二十二日は暮れゆく
2003.9月21日
木染月二十一日台風は掠め去りゆき涼風となる
2003.9月20日
見上げれば九月二十日に降る雨の音色優しく秋奏でおり
2003.9月19日
汝が指に触れたる記憶想ひいる九月十九日の夜更けに
2003.9月18日
九月十八日空の高き日に背筋凍えし映画を観おり
2003.9月17日
つつがなく九月十七日を終ふなにか物足りなさを残して
2003.9月16日
九月十六日戎橋筋に昨日の余韻程よく熱き
2003.9月15日
敬老の日に誕生日の母に宛て花を送りし9.15
2003.9月14日
なにものも吹っ飛ばしたき瞬間を待ちおりナゴヤ9.14
2003.9月13日
九月十三日土曜午後二時の我が机上にて汝が夢を見ん
2003.9月12日
なにごともなかったような九月十二日の雲は千切れ去りなむ
2003.9月11日
九月十一日夕刻のそらに優しく熱き色は染まらむ
2003.9月10日
歳の数集めて放てロケット砲九月十日は阿呆生誕祭
2003.9月9日
印象派の絵のよう 空に無邪気なるひかり舞ひ散る九月九日
2003.9月8日
やんわりと黄に染まりゆく街路樹に秋感じいる九月八日に
2003.9月7日
少年は終わらぬ夏を泳ぎおり九月七日の一瞬(いま)とぞ永遠(とわ)に
2003.9月6日
何をかの余韻のように葉を揺らす九月六日の風心地よき
2003.9月5日
白昼の汗ひとすじに溶けおりて九月五日の拓きあおぞら
2003.9月4日
照りつける陽もどこかしら秋色に染められゆかむ九月四日に
2003.9月3日
見上げれば沸き立つ雲に空蒼く九月三日に夏は目覚めり
2003.9月2日
夕暮れの陽よ心地よく撫でおりぬ九月二日の吾が影長く
2003.9月1日
良い秋になりますよふに汝がためにただ祈りおり九月一日
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2003.8
2003.8月31日
静やかにあっけらかんと夏は過ぎあっけらかんと八月を終ふ
2003.8月30日
憂き事はいじけた夏に葬らん八月三十日の陽盛ん
2003.8月29日
ちゃぶ台をひっくり返す勢いが欲しい八月二十九日に
2003.8月28日
点滴の絆創膏は白く映え八月二十八日病臥
2003.8月27日
柔らかき日射しよ寂し八月の二十七日ひたひたと秋
2003.8月26日
鬱憤を晴らすが如き雷に夏猛りおり8.26
2003.8月25日
風邪枯れの声にて君の名を呼べばなお愛しけれ葉月二十五
2003.8月24日
偽善でも24時間過ぎし後の愛こそ願ふ8.24
2003.8月23日
八月の二十三日オキナワの基地より発てり爆音を聴く
2003.8月22日
紺碧の空ただ遥か澄みおりぬ八月二十二日沖縄
2003.8月21日
守るべきものを守らん八月の二十一日空なお蒼く
2003.8月20日
八月の二十日 二十五 三十と 指折り数ふ秋の足音
2003.8月19日
葉月とぞ呼べばようやく夏らしき陽の降り注ぐ十九日に
2003.8月18日
盆明けを惰性で流す八月の十八日に覇気空転せり
2003.8月17日
久方の父母の髪なお白くなりゆきて八月十七日に
2003.8月16日
秋雨といふ予報など聞き流す 8.16 目を醒ませ夏
2003.8月15日
ポツダムの声なほ遥か八月の終戦の日の球児はつらつ
2003.8月14日
なにをかを確かめる雨吾が胸は八月十四日に汝を慕ふ
2003.8月13日
行き交ひし人減りゆきむ御堂筋八月十三日の閑寂
2003.8月12日
汝を結ぶもののひとつと海を見る八月十二日の陽柔く
2003.8月11日
携帯に仕事の電話鳴りやまぬ八月十一日夏期休暇
2003.8月10日
汝を想ふこころ一面晴れ渡る八月十日台風一過
2003.8月9日
銀鱗をびくともせずに空駆けん八月九日たかが台風
2003.8月8日
台風の夜にこそ汝と過ごしたき八月八日一睡の夢
2003.8月7日
夏雲はフロントガラスにうつろいて八月七日違反者講習
2003.8月6日
シンプルな想いに見い出す真実を抱きしめゆかむ八月六日
2003.8月5日
ゆっくりと光りの束に包まれる八月五日吾は君が好き
2003.8月4日
店先のハイビスカスを眺めおり八月四日ふと君を想う
2003.8月3日
照りつける陽をいっぱいに吸い込みし子よ逞しき八月三日
2003.8月2日
過不足のなきこの距離を抱きしめて八月二日逢える日を待つ
2003.8月1日
あたらしき吾に注ぎゆけ陽のちから八月いっぴ燦々と夏
--------------------------------------------------------------------
2003.7
2003.7月31日
来る月に想ひそのまま持ち越して七夕月を穏やかに終ふ
2003.7月30日
吾が耳に優しき雨のリフレイン七月三十日を潤す
2003.7月29日
ゆっくりと柔き時間は戻りゆく七月二十九日貴女と
2003.7月28日
吾が胸の梅雨明けゆきて七月の二十八日夏は来れり
2003.7月27日
夏陽射す七月二十七日にもう汝を離すまじとぞ誓ふ
2003.7月26日
簡単に口には出せぬ言の葉が漂ふ七月二十六日
2003.7月25日
答えなど無き問いならば答えなど要らぬ七月二十五日
2003.7月24日
天神の囃しに子らよ夏となれ七月二十四日の熱き
2003.7月23日
いつか見た優しき雨が吾を包む七月二十三日水曜
2003.7月22日
汝が髪の香りを乗せし風を抱き寄せて七月二十二日
2003.7月21日
来る夏に我はなにをか待ちわびて過ぐる七月二十一日
2003.7月20日
この雨期を急き立てるよに蝉たちの声逞しき七月二十日
2003.7月19日
羽田発七月十九日九時の空より君のことだけを想ふ
2003.7月18日
吾が想ひ爽やかなりし風となり七月十八日の汝へ向け
2003.7月17日
夏風よ七月十七日に吹け雲の切れ間に拓き蒼空
2003.7月16日
許せないことと嫌いは別物で七月十六日の夕暮れ
2003.7月15日
吾が耳に届きし声のたしかさに七月十五日は晴れゆく
2003.7月14日
追憶はあの日のままに御堂筋七月十四日の空厚き
2003.7月13日
恋しきをこの雨粒に託しおり七月十三日の汝に降れ
2003.7月12日
小雨のち曇りののちに吾は晴れん七月十二日無事帰阪
2003.7月11日
暁闇の七月十一日未明吾が銀翼は雲海を駆る
2003.7月10日
なにごとを待つあてもなき我に降る七月十日夏の太陽
2003.7月9日
忘られし約束ばかり多すぎて七月九日ただ空を見る
2003.7月8日
強さとか弱さの意味を測りかね七月八日曖昧な晴れ
2003.7月7日
天空に叶わぬ夢を解き放つ七月七日織姫何処
2003.7月6日
枯れかけし幸福の木に水をやる七月六日君に幸あれ
2003.7月5日
携帯を閉じては開きまた閉じる溜息ながき七月五日
2003.7月4日
週末になるのが何故に憂鬱か七月四日花の金曜
2003.7月2日
多忙さに救われている我がいて雨降りしきる七月二日
2003.7月1日
前向きに意気揚々と今月を迎えたかった七月いっぴ
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サボタージュスターバックスアイスティ時計を見ては待つ人もなく
改札を往く足どりに乱れなくちょっと憎らしあなたの背中
傍に居るよと言いながら離れようとする私を離さないでね
ゆっくりと取り戻しゆく陽のちから戯るようにキラキラと映え
いくつもの想い寄せ合うようにして藍咲きおりぬ紫陽花の季(とき)
誰知らぬ想ひを胸にとじこめてコスモスは野にそっと咲きおり
まだ恋を知らぬ少女のたおやかさすずらんはただ俯きて咲く
生きることただそれさへも儚くて菜の花色の君の名を呼ぶ
少年の夏の記憶に添ひおりぬ向日葵はそう太陽の花
靴を脱ぎ捨てるみたいに簡単に捨て去ることを許さぬ心
幸いに空はこんなに美しく泣くことさえも忘れたフリで
終わりなどないと思ったあの時のあの空だけが今も変わらず
あの時の本は栞に閉じたまま もう開かれぬことも知らずに
理屈では収まりつかぬ吾の胸に知ったことかと打ちつける雨
夏服を着替えるような気軽さで忘れたいのに忘れられない
過ぎ去れば真珠のような君の瞳に溢るるほどの思い出が欲し
秋風に実らぬ恋を名残る空 季節はずれの蝉の抜け殻
この恋を弔う儀式鏡台に向かひし君を不器用に抱く
一秒が過ぎ往くほどにあなたから遠ざかりゆく成す術もなく
なにもかもすべてがこれで良かったと誰かに言ってほしい夕暮れ
なにげない会話のなかで君が吾にわからせようとしているなにか
なにごともなくなにごともなくなってしまったことに怯えるこころ
時計など捨ててしまえば永遠になれる気がする 永遠って何
その型に名前をつける必要はないから 今はこのままでいい
あの人がくれたものって結局は 結局という言葉が既に
現実を思い知らせるためだけの日々の目覚めをじっと耐えおり
あのカフェのあの席で飲むアイスティ記憶をそっと綴じる夕暮れ
天窓に一面に咲く星明かり君を小さな主人公にして
他愛なくあなたが笑うその声にただ穏やかにこころ脈打つ
陽を浴びて風に逆らふ若き葉に 汝を忘れざる我を重ねて
デジタルの数字はそっと流れゆく流せぬ心置き去りにして
傍らに貴女が居ないそのことを思い知らせるだけの宵闇
なにもかも壊してしまひたくなりて壊されたきは我と気付かむ
騙されたフリしてあげる優しさに気付いてほしいわけじゃないけど
哀しきは違(たが)う二人の想い出の苦さばかりが二人似ること
本当のことを言わないあなたにはほんとのことは聞いてあげない
本当のことを言わないあなたにはほんとのことは言わないでおく
点と点辿れば線となりゆきて哀しき嘘の辻褄は合う
寂しさを埋めたかったの 最初からそれならそうと言えばいいのに
あの夢の証 あなたが匂いたつ吾が中指の第二関節
乱れゆく肢体 ベッドの花柄の貞淑さなど足で追いやり
まっさらな君を迎えるために降る熱きシャワーに流しゆく過去
午前二時シーツに染まる血の海に泳ぐふたりの玉川上水
疎まれているかもしれず だんだんとレスの字間に風吹く隙間
騙されているかもしれず いつになくサービス過剰に絵文字は踊る
誘われているかもしれず 相槌を忘れし君がじっと吾を見る
呪われているかもしれず 吾が上に汝が乗りおりて犯される夢
笑われているかもしれず 気合いとぞ送りし文(ふみ)の熱さ長さを
試されているかもしれず 空にしか汝と繋がれぬ我のこころが
許されているかもしれず 終電の間際に君はメニューを開く
避けられているかもしれず 留守電のサービス嬢に慣らされし耳
拉致(さら)われているかもしれず 汝の元へ預けしこころ未だ帰らず
ケンタッキーフライドチキンのカーネルに聞かれても良い話しなら聞く
ケンタッキーフライドチキンを手短かに済ませるメニューをあなたは選ぶ
ケンタッキーフライドチキンのカーネルの背中を見ては逸らす鉾先
ケンタッキーフライドチキンを指先で持て余しつつサヨナラを聞く
ケンタッキーフライドチキンの看板が滲んでいるよ さらばカーネル
ケンタッキーフライドチキンの軒先に吾がこころだけ置き去られゆく
安っぽいセンチメンタル持て余す七月四日 色の無い海
結末のない恋なればこそせめて愛せ明日など見えないままに
「おめでと」にサヨナラの意味込めながら 他人行儀なメールを送る
土砂降りの優しき音が吾を包む叶わぬ夢の悲鳴掻き消し
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