2013.11/20〆(2014.2月号掲載)
光年を隔てて見ゆるいまはもう跡形もなき星の残像
ささやかな風にまぎれて蒼天にふる雪をまつ恋かもしれぬ
■銃身のようなる枝にいまもなおしがみつきたる蝉の抜け殻
■磨り硝子越しに見ている家政婦を覗き見ている家政婦二号
嘘をつく時はかならずクロールでちからいっぱい目が泳ぐ人
■中指と人差し指を丁寧に揃えた指でお寿司を食べる
■パジャマ着てナイトキャップで外へ出る人はたいてい腕組みをする
骨付きのチキンにしゃぶりつきながら思い出してるあなたの鎖骨
■カーネルに罪など全部おし着せて道頓堀へぶち込めハニー
タラちゃんが走った時に出る音で今シーズンの彼を占う
2013.12/20〆(2014.3月号掲載)
■暑かった今夏を額にとじこめて真冬にひらく水彩画展
すきとおる冬の呼吸を窓外に聴きつつ夏の絵をならべたり
■現世から隔離されたるここちして個展会場より外を見る
■それらの絵えらぶ人らにそれぞれの理由がありて夏の絵を売る
■ふと客が途切れたときの静寂に歌いはじめる水彩画たち
■気がつけば五分十分 売約の絵の前にいて其れを見つめる
走馬灯のようなる日々よ旧友や知人先輩つぎつぎに来る
■一瞬の光りを描く 我々の死後もそそぐであろうひかりを
■夢中とは夢の中なり夢中にて描いた夜が思いだせない
■子の描きし夏の景色を父母は噛みしむようにゆっくりと見つ
2014.1/20〆(2014.4月号掲載)
蕎麦のうえ鎮座まします海老天は衣に比して身が五割弱
■四十五度に座椅子かたむけ紅白を観れば吼えいる泉谷しげる
紙吹雪に鼻を塞がれませぬよう祈りつつ観る北島三郎
■うたた寝をしていたのだろ天童よしみ付近の記憶が抜け落ちている
紅白の熱をゆく年くる年に冷まされながら新年を待つ
新年の時報を挟みひとしれず足掛け二年の小便をする
■おめでとういやこちらこそ洗面の鏡に向かう独り身のあさ
■かまぼこの板は木目に墨汁が走るので表札には向かない
弾力のせいかもしれぬ 蒲鉾を噛むわれの歯を押し返すのは
■正月のテレビを観ればかまぼこのような目をした人たちばかり
2014.2/20〆(2014.5月号掲載)
何をされているのかさえもわからずに歯科医の技に我をゆだねる
■歯を削る音ひびくたび無意識に削られまいと力む奥の歯
歯科助手は美人が多い そういえばここ二、三年キスをしてない
■歯科助手の胸ちかすぎて我が国の為替相場へ意識を逸らす
歯科助手の胸が触れたる右の肩 今日はお風呂に入らずにおく
年始回り(他社)の後尾に貼り付いて仲間意識をひとり味わう
■一心に米を研ぐときくるくるの渦に魅入って立ち眩みする
健康のためにと大阪城へ行き二周歩いて即風邪をひく
■眼鏡してマスクをすれば呼吸するごとに視界はくもる 冬だね
■会話するようにかれらの足音が寄り添いながら雪をふむ。きゅきゅ