菜の花は何にさざめく廃線となりし軌条にふる天気雨
2015.5~

2015.5/20〆(2015.8月号掲載)

 

ひそやかに春は来たりぬ繋がれた子犬のながき毛をそよがせて

 

■記憶とはあやふやな棘 雨傘の襞の谷間が湿りておりぬ

 

■身震いをする犬のごと傘を解き五月驟雨の街へ出かける

 

降り立てばホームの風はうるさくて乗客だった過去をわすれる

 

■中学生のようにこそこそ久保さんと丸山さんと煙を吐きぬ

 

■海に浮くあぶらが放つ虹のごと新宿で聞くおおさかことば

 

減点一の調書とりつつ老巡査は目のみを上げて我を見つめた

 

■高速で唸りをあげる換気扇の羽根越しに見る春、白濁の

 

■刀身の血をはらうごと傘を振り逢いたきひとの待つ店に入る

 

■黄色いイカのようなる子らがぴちゃぴちゃと追い抜きゆけり春雨のなか




 

2015.6/20〆(2015.9月号掲載)

 

■二度寝から目覚めたような街をゆく犬にあくびをうつされながら

 

■朱に染まる高架をゆけばビルの間に患部のごとき陽が見えて消ゆ

 

■イリオモテヤマネコがすき好き勝手に生きてなおかつ大事にされて

 

■吹降りの雨に差し込むゆびさきの贖罪手記を閉じて去りたり

 

広辞苑に付箋をつけて閉じおればその勢いで付箋はがれる

 

■店員がコーラを置きて去りしのち続きを歌う「キューティハニー」

 

■「自由」とは「孤高」のこども香ばしい塩ラーメンを鍋のまま食う

 

■会ったことはないけどわかる快活な叔父貴のようなかごしまへゆく

 

とうきょうを偉ぶるひとに関西弁開放レベルMAXで笑む

 

■ひそやかに水位あがりて表情を悟られぬようその口を吸う

 

 

 

 

 

2015.7/20〆(2015.10月号掲載)

 

■息子夫婦をまつ夕つ方このようにかつては我を待ちしか父も

 

■テンピュール枕となりて向き合いぬ疲れたる娘が零すことばに

 

■注意書きの赤き文字のみ陽に焼けてそこのみ見えなくなる給湯器

 

はんたいの怒号ばかりが燃えさかりわが窓を染む 銃後のごとく

 

左耳ばかりくすぐる初夏のときには右の声も聴きたい

 

例年とくらべられても梅雨明けは我には常にはじめての夏

 

■新聞はビニール袋に入れられてあかつきのその手間を想いぬ

 

■フィナンシャルプランナーが描くまっさらな舗道を逸れて川へゆきたり

 

わが傘のさきよりながれゆく川ののびてちぢんでバスに揺られる

 

■ややとおい暗喩のようにじりじりと甘噛みしたるみみたぶの肉





 

2015.8/20〆(2015.11月号掲載)

 

自転車のサドルに置きし手の甲にしばし陽射しを載せてから発つ

 

『飛行』抄読み終えしのちあじさいの咲きいるなかにあぢさゐを見る

 

■祖母に手を合わせる横に童子とう文字きざまれし位牌のありぬ

 

浮上して顔を上げたる水面のながき終章を読み終えしのち

 

■訊かれれば地図くらい描く ニッポンはやさしい国と思われたくて

 

■諏訪ナンバーに道を譲りぬ おおさかはやさしい街と思われたくて

 

■老人に席をゆずりぬ いい人と思われたくてするわけでなく

 

■溶接工の面のようなるツバ広きサンバイザーとすれ違いたり

 

盆終えし改札口にはそれぞれが持ち帰りたる夏がさざめく

 

目覚めれば秋の匂いの澄みわたりまた一歩われは死へと近づく

 




 

 

2015.9/20〆(2015.12月号掲載)

 

■「はじめまして久しぶりだね」名前だけは旧知の友とかごしまで会う

 

■お若いのですねと言われ聞こえなかったふりしてそれを二回言わせる

 

■充電と称して喫煙所へゆけば亜子さん久保さんが常におりたり

 

身内の匂いに引き寄せられて座りたる後ろで小川ちとせさん笑む

 

互選歌を互みにえらびし酒井さんと晩夏の隅で褒めちぎり合う

 

■淳幸緒ぴりか(敬称略)とゆくファミレスメニューのフラッペ眩し

 

「みちづれ」を諳んじながら淳さんと西藤さんとゲートくぐりぬ

 

■離陸時の助走がトップスピードにさしかかる時おもかげうかぶ

 

■たましいが離脱する日を思いおり重き機体の浮きあがるとき

 

ふりそそぐ薩摩の肌をゆうらりと撫でいるように機影はゆけり

 

 

 

 

 

 

2015.10/20〆(2016.1月号掲載)

 

■回転寿司屋駐車場には元妻の車がありぬ うどん屋へゆく

 

■吾が詠みし元妻歌を元妻が知る日をおもう うどん伸びおり

 

■五時限目まで給食をもてあます児童のように麺をすすりぬ

 

死にばしょはここと決めしか西向きのサッシの溝にかわきたる蝉

 

■欲すればさらにさみしい秋雨の夜の底いで自意識ころす

 

■崩れゆきそうなる自我よ骨太な筆で一気に描くあきのそら

 

空に放てばかき消されゆくものならば我がためだけに声を聴かせよ

 

■すべてうちあけてしまえばからからと空のラムネに射す晩夏光

 

照準をあわせて便器にこびりつくよごれをおとす尿の奔流

 

無精髭にティッシュの屑の付きおりしことに気付きぬ夕つ方 秋



 

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